電車。
ガタリと揺れる体に合わせて邪魔にならない程度に頭を持ち上げる。
ぼんやりとした視界に映るのは、うとうとと頭を揺らすサラリーマンや走行音にかき消されるギリギリの声量ではしゃぐ学生、スマートフォンをこれでもかと握りしめている女性。まさに三者三様と言った形。
更に視界を上にずらすと灰色と茶色が混ざった色をした壁がせわしなく現れては彼方へ消えていく中に。やけに疲れ切った顔をした自分が映った。見ていられなくて目を閉じる。
重く無機質な走行音。誰のものか分からない吐息。どこかから漏れている微かな音楽。音が体に溶けて込んでいく。そしてそのまま自分も。同化していくような。
突如体を襲った震えにハッと目を見開いた。
窮屈そうに座る自分の体をなるべく動かさないように電光掲示板を見やると最寄り駅が白く点滅している。危ない、寝過ごしてしまうところだった。
座席にへばりついた感覚のままになっている体を無理やり抜き取ればぽっかりと現れる空席。さっきまで自分がいた空間。同化しようとしていた空間。ここまで着いてしまえばもう未練はないはずなのに。
優しげなアナウンスと高いため息のようなドアの音。単調な音の羅列に急かされて足早に電車を降りる。
思わず消費してしまった息を取り戻すように空気を吸い込む。しかし空間に漂う眠気すらも迎え入れてしまったようで、結局は大きな欠伸をしてさらに息を消費する結果に終わったのだった。
(暗転)
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