消えた話。
ーもう耐えられない
もう全てを潰してしまおうと言わんばかりに、空気を切り裂くような金切り声でその子は言った。
ちぐはぐな季節を身にまとった彼女の姿はお世辞にも似合っているなんて言えない。けれどそんなところがぼくは。
「好きだ」
ようやく口から出た言葉。
大きな目を見開いて彼女は僕を真っ直ぐと見つめる。
「もう…遅いよ」
不器用な笑顔。掠れた声。僅かに黒い涙が瞳から零れる。
その雫が、落ちてしまう前に手を伸ばした。
自分の全速力を持って、彼女が堕ちることを止めようとした。けれどもう。
目の前から彼女が消える。
べちゃりと何かが潰れる音が耳に届く。
下を覗けどその姿は見えない。ただ手のひらに残るのは僅かに掴んだ冷たい涙。
大好きな彼女…否。大好きだった彼女は。
ぼくの姿によく似ていたような気がする。
(暗転)
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