これも全て。
目が覚めた。
目まぐるしく動く世界から解放されて残ったのはだるさと小指の痺れと疲労感。直前まで何を考えていたか。ようやく自分の意志で思考を動かして思い出さなきゃよかったと後悔する。口からは自然とため息が洩れた。なくなった分の酸素を取り戻そうと思い切り息を吸い込むとむせ返る。ただの悪循環。
言葉に出来る思いと言葉に出来ない思い。その両方には意外にもあまり違いはない。ただ言い慣れているか。誰かに言おうとする意志があるかどうか。それくらい。実際やろうと思えば拙くても何かしら言語化は出来る。それに満足するかしないかはまた別問題だが。汲み取れる人間であれば理解は容易なことだろう。
いつからか。本心の居所が分からなくなった。
憧れでコーティングされた嫉妬。尊敬で塗り替えられた僻み。希望の皮で包まれた絶望。少しだけチクチクとしたものを飲み込んで生きてきたせいだろうか。添加物でいっぱいになった腹の中をこれでもかと言葉で埋め尽くしてしまえば、いくら殴られても本心なんて飛び出してこない。
だから言葉を連ねる。選び取っている暇なんてない。ただ乱雑に言葉を重ねて、少しでも本心を掘り起こそうと躍起になる。
耳元で何かが弾ける。突然クリアになる音。ぐらりと揺れる脳。体から湧き上がるのは止められない寒気。ぐるぐると急かすように腹が鳴る。
あれ、腹の中はもう空っぽじゃないか。
積みあがった言葉が砂のようにさらさらと消えていく。手に取っていたはずの言葉も全て。
意味もなく首筋をかきむしる。ピリッとした痛みに思わず手を離せば、爪の先が赤く汚れていた。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます