とても簡単な自傷行為。
「はぁぁぁあ…」
うちの兄はアニメが大好きだ。今日も今日とて大好きなアニメをリアルタイムで視聴し終えたというのにソファーでがっくりと項垂れている。右手には予想通り画面が付きっぱなしのスマートフォン。あぁ、またいつものやつか。
「お兄ちゃんも物好きだよね」
「…何が?」
重たそうに頭を上げた兄の不満げな顔は正直もう親の顔よりも見た気がするくらい見慣れたものだった。
「いい加減アニメのトレンド確認するの止めなよ」
「なんでだよ!作品の尊さを共有したいだろ!」
「それ以上に解釈不一致のツイート見てへこんでるの慰める身にもなってくれない?」
「別に慰めてなんて言ってないし…」
面倒くさい彼女のような言葉を吐いて兄は再び床に視線を落とす。その状態でいられるだけで迷惑だということに気が付かないんだろうか。もういい大人のくせに。
兄は全てを肯定しすぎる節がある。
自分の好きなものだけじゃなくて否定的な意見も全て素直に受け取ってしまうくらい。傷つくくらいなら肯定しなければいいのに。ある程度割り切って否定があることを否定するのも人生を楽しく生きるコツだ。批判を聞けだ?別にいいだろう。どうせ喚いているのは10人いるうちの1人くらいだ。100人にしたら10人、多そうに聞こえるが1%の確率論は変わらない。
「全世界の人間が喜ぶものなんてないんだからさ」
こちらも何度目か分からない言葉を丸まった背中にぶつける。しかし浪費されて耐久力のすり減った言葉は、自分への自信のなさという自虐の殻に閉じこもっている兄に届く様子を見せることはなかった。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます