後輩。

褒められるのが苦手。

自分に自信がないわけではないけれど、褒められるのはどうにも苦手。別に誰からも褒められてこなかった人生でもない。むしろ人よりは褒められる機会は多かったと思う。それでも私は褒められるのが苦手なんだ。


「贅沢な悩みですよそんなの」


一言、私の悩みを一刀両断するように後輩はため息を吐いて言った。


「そうかな?」

「そうですよ!特に人より褒められる機会があったとかただの自慢じゃないですか!」

「うーん…」

「私なんて今日通算100日目の遅刻で怒られたばっかですよ?」


頬杖をしながら唇を尖らせて後輩は文句を零す。「それは自分のせいじゃ…」と出かかった言葉を飲み込んで苦笑い。大体この手の話に反論をしたら彼女の愚痴コースまっしぐらなのは先週学んだ。


「そうだ、先輩昨日のドラマ見ました?」

「あぁ…えっと…なんの?」

「先輩はなんも知らないですねぇ~昨日やってたのはですね…」


さっきとは打って変わって得意げな顔で昨日のドラマを語り始める。きっと今日はこのままドラマの話から好きな俳優さんの話になるんだろう。長話になることに少し焦ったけど時計はまだ午後4時を指していて、乗らなきゃいけない電車の時間までは充分あることが分かってホッとした。


「先輩聞いてます?」

「うん、でそのヒロインの子がどうしたんだっけ?」

「そうヒロインが主人公のいもけんぴを拾って…」


何度脳内で繰り返したか分からない悩みを根底からバッサリと切り捨てられるくらいには後輩は私に興味はない。でも今はそれくらいがちょうどいい。


褒められるのは苦手。

褒められる分なんだかずっと行動を監視されているみたいで。


自分の興味があること以外に興味がない後輩は私を基本褒めない。普通なら自分を褒めない人間とは一緒にいたくないのかもしれない。でも、褒められることにひねくれた視点を持つ私には、本当の意味で第三者視点でいる後輩は私が一番居心地がいいと感じられるんだろう。そんな気がする。まぁ、後輩には知る由がないんだろうけれど。



(暗転)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る