シンデレラストーリー。
シンデレラストーリーが大好きだ。
昨日まで誰の物語にも残らなかったモブが一夜にして引っ張りだこな名バイブレーヤーに早変わりする。
自分が死ぬまでに出来ればいろんな人の心に残っていたい。それがきっと人間ってモノじゃない?
だから私は色んな餌を撒いた。
平日は朝の食パンを欠かさなかったし、わざとスカートを短くして意味もなく階段を上り下りしていた。休日は少しだけ地味目な服を身にまとって。視力はマサイ族にも負けず劣らない自信があるけれどあえての伊達眼鏡。少しおどおどとした子を演じてみたり、逆に派手な服装を纏ってすっかり被り慣れた金色のウィッグをなびかせて歩いたりもした。人が避けてしまうものを積極的に請け負ってみたり、わざと少し悪ぶってみたり。あくまでも一夜にして、私は赤いカーペットが敷かれた踊り場もない長い階段を駆け上ってみたかった。
それなのに。
ー今日のゲストは…
ふかふかな一人掛けのソファーに腰を下ろして他己紹介に耳を傾ける。大勢の年下に囲まれている姿を昔の自分が見たらどう思うんだろうか。なんて呑気なことを考えていたら、はじけるような明るい声が私の名前を呼んで一言投げかける。
ーさて、今まで様々な作品に出演されてきて今年初主演映画ということですが…ズバリ今のお気持ちはいかがでしょうか?
キラキラと輝いている視線にぽっかりと空いた穴を照らされる。
嬉しい。光栄。ようやく。楽しかった。頑張った。疲れた。素敵な作品になった。
宙に浮かんだ言葉を拾い上げてつなげると、きっと素晴らしい文章になる。言葉を無難に染め上げて。
「そうですね…今までの努力が実になった結果だと思います、とても嬉しいです」
言葉を並べ立てる目の前の少女の目がさらに輝きを纏う。眩しすぎる光にふと視線をずらすと部屋の片隅で、不服そうにしている過去の自分が見えた気がした。
(暗転)
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