猫である。

吾輩は猫である。名前はまだない。

大きめな河原。雨がパラつく秋口。電車とかいう大きな四角い箱が煩い場所で産まれたことは何となく覚えている。

それから、母は女手一つで吾輩を育ててくれた。

雨雪のしのぎ方、ご飯の取り方、ひなたぼっこに最適な場所。生きていくために必要なものを教えてくれた。

そんなある日。


母は大きな…車というものから吾輩を庇って。


「」



それから数ヶ月。吾輩は一人で何とか生き延びてきた。しかしあの時左足に追った怪我は日に日に痛みを増してきており、今は歩くことさえ困難になっている。


(あぁ…もう)


なんとなく自分の末路は察していた。今日はいつにも増して土砂降り。やせ細ってボロボロな吾輩なんて排水溝に流されてしまうだろう。そう諦めて目を閉じた。


「あれ…」


その時。

今まで体に降り続いていたはずの雨粒を感じなくなった。ついに体がイカれてしまったのかと思ったが、その瞬間にあたたかい温もりに包まれる。何とか目を開くとそこには真っ黒のおさげを両側携えた人間がいて吾輩を抱き覗き込んでいた


「猫ちゃん大丈夫?」


これが大丈夫そうに見れるか。

そう言うと人間は何故か笑う。


「猫ちゃん、うちに来る?」


吾輩は猫である。

名前は



(暗転)

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