箱。

そこは水のない立方体のアクアリウム。

その中央にポツンと置かれた木箱は水草のように揺らめくことはない。

ただそこに”存在”だけしている。


人工的な光が黒を照らして、不意に消えた。

闇に浮かぶ砂の粒のように蓄光が淡く浮かび上がり、古木が軋む。

視界の端にふわりと感じる青白い光は見ないふりをして目を閉じた。

五感が一つ消えると他が研ぎ澄まされるのは本当らしい。僅かに鼓膜を震わせる扇風機の音さえも大きく聞こえる。


刹那、暗闇がしんと静まり返った。誰かの息を吸う声が聞こえる。

誰かの肺に取り込まれた息を吐き出すのに合わせて、ゆっくりと瞼を持ち上げると目が眩むほどの輝きに、視界を奪われた。



(暗転)

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