色。

何色が好き?

べたべたと興味を引こうと近づいてくる馬鹿な女が使うありきたりな質問。好きな色が分かったところで一体その人の何が分かるっていうんだ。そして俺が適当に答えると決まってこう言う。


「え?いがーい!」


何が意外なんだろう。お前の中での俺は何色だっていうのだ。

自らの色を強要してくる人間は嫌いだ。似合う色なんてその時の雰囲気や服、外の天気でコロコロと変わるものだろう。大体そんなことを聞いてくる女は「君は可愛らしいピンクだね」といったら喜ぶ。ピンク=可愛いっていう方程式が出来上がっているのはお前の頭の中だけだっていうのに。


「何着ていこうかな」


軽く10人以上はすっぽり入るだろう衣装部屋の扉を開いて電気をつける。あたたかなオレンジの光を浴びて色とりどりの洋服たちが輝く。俺はこの景色が好きだ。自分の好みの色なんかに思考を奪われた馬鹿には決して見ることが出来ない世界。服は着るものじゃない、着させていただくものなんだ。


「まぁ、こんなこと言っても分からないと思うけど」


この幸せは俺が分かっていればいい。馬鹿に分かってたまるか。

人には見せられない黒さを隠すように、俺は鮮やかな黄緑のシャツに手を伸ばした。



(暗転)

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