主人公の成り方。
スマートフォンとイヤホンを繋げるとジッとノイズ音が耳の内を駆け抜けていく。いつものように画面の光度を上げてからお気に入りのセットリストを押す。視界を真上に上げると太陽光と正面衝突して刺激に目が眩んだ。
フルフルと頭を揺らして刺激を脳の端に追いやるとすでに髪先に鎮座していた汗がぴたりと額にへばりつく。不快指数がやる気を上回る前に、僕は陽炎が立つアスファルトを踏んだ。
主人公になりたい日は無駄に視界を散らつかせてみるものだ。そうすることで自然と脳内フィルムに町中のカットが焼き付いていく。発声する必要のないナレーションは自分好みの声に出来る。なんなら自分の声も。どんな人気者でもお代はタダ…推し活で貢げば罪悪感はない。
自分のあらゆる感覚を。僅かに研ぎ澄ませる。ほんの数グラムだけ。
そうするだけで身の回りは変化する。
踏み歩くアスファルトはざらりとした舞台。
端に点在するマンホールは小さな迫。
目が眩むほど眩しい太陽は全体を照らし出せるライト。
視界に映る全てのものは舞台セット。
勿論カメラは僕自身の瞳。
膨大な映像ファイルは脳内に圧縮してしまい込む。
観客なんていない作品の主人公。
満足できないのなら、きっと主人公の器なんかないのだろう。
僕という人生ドラマの主人公である僕はそう思う…よ?
(暗転)
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