飴。
甘い、苦い、辛い、酸っぱい。
舌に乗っている虹色の飴は転がるごとに表情を変える。
不思議なものだ。本来飴というものは味が一つしかないはずなのに、この飴はぼくを飽きさせない。
「学校も毎日こんな感じだったらいいのになぁ」
何も変わり映えのしない校舎、バカの一つ覚えみたいに陰口にもならない悪口を叩く同級生、ただ威張っているだけで脳のない先輩。別に毎日が幸せじゃなくていい。でもこうも毎日が同じだと行けるものも行きたくなくなるわけで。俗にいう刺激がない状態。つまらない。
勉強は自分でやった方が捗るのに何でわざわざだらだらと時間を潰すだけの授業なんて受けなくてはいけないんだろうか。さっさと卒業出来てしまえばいいのに。
「あ」
板のようになった飴を癖でかみ砕いた。するといろんな味が口に溢れ出てくる。味の波に押しつぶされてしまう。
甘い、苦い、辛い、酸っぱい、甘い、苦い、辛い、酸っぱい、甘い、苦い、辛い、酸っぱい
「っ……朝か」
跳ね起きるとそこは自分の部屋。丈の足りないカーテンからは朝日が差し込んでいた。スマホの目覚ましはまだ鳴る気配はなくて。ため息を吐きながらぼくはベッドに逆戻りした。
いつからだろう。こんな夢を見るようになったのは。夢は基本的に五感情報が薄れるというのに。あの味をぼくははっきり覚えている。
「…ま、考えても仕方がないんだけどね」
誰にも聞こえない声でそう呟いて、ぼくはもう一度瞼を閉じた。
(暗転)
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