悪い話。
これは誰も悪くない話。
昔から、君はみんなのお手本だって言われていた。
あなたは一番いい子で、なんでもできて「頼りにしている」だって。
僕が笑ったらみんな笑ってくれた。僕が泣いたらみんな泣いてくれた。僕が喋ればみんなが答えてくれた。
けれどいつしか。
僕が怒ればみんな笑うようになった。僕が泣いたらみんな笑うようになった。僕が喋れば…みんな笑うようになった。
だから、幼い僕は勘違いしたんだ。
僕には人を笑わせる才能があるって。
何をしてもみんなが笑ってくれた。最初はよかったさ。それでもだんだん笑い声が耳をぐしゃぐしゃに埋め尽くしていって、息が苦しくなってだんだん声が聞こえなくなってきて頭がぱんぱんになって何も考えられなくなってそれでそれでそれで。
笑い声が嫌いになった。
僕の耳には大っ嫌いな笑い声がずっと聞こえる。
埋め尽くされてしまった耳を掃除するには器用さが足りなくて。
それでも必死に取ろうとした。奥まで奥まで指を伸ばして。
そうしたら。
今度は何にも聞こえなくなっちゃった。
何も聞こえない場所は考えがぐるぐると回りやすい。
そこで僕は気が付いてしまった。
僕にあるのは人を笑わせる才能じゃない。
人に笑われる才能だって。
自分の才能に盲目だった僕は周りが見えていなかった。
だからずっと気が付かなかった。
全てが聞こえなくなるまで。
今更、もう、手遅れ
気が付いたところで僕にはもう何も響かないし聴こえない。
穴の開いた鼓膜が塞がるまでは。
これは誰も悪くない話。
強いて言うなら
出来損ないの、僕だけが悪い話。
(暗転)
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