第62話
翌日、俺はアストナーク郊外へと赴く。以前俺が住んでいた家は今も健在であり、数日おきに畑の整備を行っている。
屋敷で振舞われる野菜の殆どがここで取れる物であるならば一人の時よりも気合が入るというもの。腕まくりをし、納屋からいつも通りの農具を取り出す。緩やかな坂を下る畑までの道のりは、思わず昔の生活に戻ってしまったのでは無いかと錯覚させられる。
やはりこの家にも愛着があるなと改め、気合の炎も燃え上がる。
「さてと、茄子ちゃんはきちんと育ってますかねぇ」
数日前に目星を付けていた茄子の様子を伺う。俺の予想が正しければ、間違いなく食べ頃であるに違いない。リゼにも美味しい茄子を取って帰ると言っているし、今から晩飯のメニューが気になって仕方ない。
「ふんふふーん……んん?」
違和感。いいや違う、最早違和感などでは隠し切れない程、畑は何者かに荒らされていた。無節操に踏み荒らされ、たわわに実っているであろう野菜の尽くは根元から引き千切られていた。
何故だ、確かに結界魔法は使っていないが獣除けは完璧な筈。ものの数日でここまで荒れてしまうものなのか?
「……獣じゃない……人か……?」
荒らされた野菜の茎を見れば一定間隔の秩序が見え隠れしていた。動物にこんな芸当が出来る訳が無い。
「ふん……犯人は何処のどいつだ……? 山賊でも出たか……?」
だが、ここで悩んでいても仕方が無い。対策は後程考えるとして、家の中も見ていた方が良いだろう。
大した物は置いていない筈だが、念の為の確認を行うべく家の扉を開け放つ。
「これは……酷いな……」
残していた食器類の殆どは割られ、花瓶も引っ繰り返っている。家具の位置も滅茶苦茶に動かされ、誰がどう見ても荒らされていると断じるだろう。
愛着のある家を踏み躙られた事よりも、どうしてこんな事をしたのかと疑問の念が湧いてくる。無人の家をこんなに慌てた様に散らかすなんて、主人の帰りを警戒した空き巣の犯行だとでもいうのか。
他にも荒らされた場所は無いかと確認をしながら自室の扉を開く。
「まったく……見つけたらタダじゃ――――」
「ぐがあぁぁぁぁぁっ、んがっ、ぐごおぉぉぉぉぉっ」
俺のベッドに我が物顔で、イビキを掻いて、数日前にいきなり勧誘してきた女神が眠っていた。
「むにゃむにゃ……もう食べられないってばぁ……」
大量の生野菜に囲まれて、世界で一番幸せそうな笑顔を浮かべながら、そんな寝言を漏らしていた。
「見つけた……」
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