第37話
「恐れるなっ! トート様の加護がある! 押せ、押すのだっ!!」
既に市街区は戦場と化し、魔法兵が至る所で住民を襲っていた。通常の形態は様々な装備を強化された身体能力で振るうのみである。
それ以外の特殊な兵は右腕に巨大な火薬兵装を装備しており、避難所へと撃ち込まれ、自爆と同等の爆発を巻き起こす。
先日の襲撃の倍以上の兵により、全方位を攻め入られながらもシルヴィア達騎士団は魔法兵へと立ち向かう。
「右腕に武装を付けた奴を優先しろ! 深入りはするなよ! 足並みを揃えろっ!」
ただ命令された通りに進軍する事しか出来ない魔法兵達は赤い目を光らせながら突撃してくる。冷静に断ち、魔法で壁を作りながら各個撃破で仕留めていく。
「『アクア・ヒール』! 退け、出過ぎだっ! 後方で治療を受けて来い!」
「は、はい! 申し訳ありません!」
得意の水属性の魔法を用い、最低限の治療だけを施し後ろへと下げる。東側の防衛に勤しむ騎士達はシルヴィアを中心に戦線を敷き、辛うじて維持出来ている。
降下して来た魔法兵達はトートがギリギリの所で対処をしてくれたものの、街への被害は尋常ではない。後一つ、何か不確定な要素が混ざり込めば、西側の戦線は完全に崩壊するだろう。
「『アクア・スィール』、『アクア・フラグメント』!」
水の魔力を剣に纏わせ、自動回復魔法を肉体に付与する。圧される周囲の騎士の前へ立ち、肉体の限界を超える剛力で剣を振る。自爆寸前の魔法兵を無理矢理蹴飛ばし、爆発に巻き込まれながらも敵軍を減らしていく。
速攻で片付ける。歴戦の感覚を以てしたシルヴィアであろうと、この戦場に圧され、緊迫していた。
「早く……早く……! ここを片付け、助けに行かなくては……!」
他の戦線を防衛しているアストナーク騎士団の面々を案じながら、誰よりも前で剣を振るっていた瞬間――――爆発が起きた。
「くっ――――!?」
「うわああっ!?」
シルヴィアではどうにもならない。右腕に火薬兵装を装備した魔法兵が建物を撃ち抜き、破片が騎士団の数人を巻き込んでしまったのだ。
まるで時が止まった様な錯覚を覚えながら、シルヴィアは振り向き惨状を目の前にする。只でさえギリギリの状況であるにも関わらず、唐突な怪我人が発生しては、どうにもならない。
何を、どうすれば。そんな思考に苛まれながら、せめて何か指示を飛ばせと喉が反応する。
「全員、退がれ――――」
「『ライトニング・バラージュ』!」
聞こえてきたのは、またもや上空。エンデル王国に災いを齎したのと同じ様にして、彼等は光と共に参戦した。
「――――退がるな、怪我人を救助して戦線を維持するぞ。この場は疾風迅雷が請け負う、行くぜ野郎共ォ!」
空飛ぶ船から隕石の如く着弾し、魔法兵を蹴散らせながら現れたのはエイプリル・キールグッドその人だった。周囲の建物の屋上には他の団員が降り立ち、一気に盤面は引っ繰り返った。
「エイプリル……どうしてここに……?」
「『ライトニング・ホープ』」
魔法具である拳銃と似通った雷の銃を形成し、二丁拳銃の状態で弾丸をばら撒き続ける。
「いやさ、丁度良いタイミングだと思ってよ。今の内に王家の皆々様にご恩を売っちまおうかってな」
光属性に適性を持っているエイプリルの雷の弾丸は一気に戦場を駆け抜ける。助けにやって来た理由など本当にその程度だ。上手く事が運べば謝礼金をたんまりと得られるかもしれない。それに加え、死ぬ筈だった王国民を守る事が出来るときたならば、エイプリル達が動かない筈がない。
「キャプテン! 治療済みましたぜぇ!」
「おう、動ける様になるまで守ってやれ! シルヴィア、もうちょい押すぞ!」
「ああ、分かっている!」
不意の増援により戦線は持ち直し、押し返す事が出来た。それぞれの戦線に僅かとはいえ増援が加わり、徐々に押し返していく。
誰もがすぐに制圧が出来ると信じたこの東側の戦線に、王城から何かが飛来する。
「ッ!? 伏せろォッ!!」
光の槍が尾を引きながら、東側の戦線のど真ん中に何かが着弾する。爆煙が立ち込める中、誰かの声が戦場に響く。
「おお、糞痛え。どうしてくれんだ……死んじまうだろうがよ」
その男は左肩口から先を光の熱で焼き飛ばされ、顔面も半分以上が損傷していた。王城でトートと戦い、相手にも同程度の損傷を与え、須王達也はここまで吹き飛ばされてきた。
先程の空中への投擲の後、須王自らも王城へと飛び込み、トートと一戦交えたのだ。既に城の中は戦場痕により半壊し、黒煙が立ち込めている。
「知恵の神っつー癖に、随分と武闘派じゃねえか……よっと」
足の筋力のみで立ち上がり、治癒能力を気合で総動員させ、肉体を回復させていく。完治までの時間は勇に一秒、トートが決死で与えた傷はその程度で完治した。
気合であらゆる枷を超える、単純明快な魔法の力。それこそが須王達也の力である。
須王が治療を完了し、辺りを見回す。土煙が晴れ、シルヴィアとエイプリルは手をこまねく様にして睨み付けている。
「そんなに飛ばされてねえな。何だお前ら、やる気か? いいぜ、掛かって来いよ」
「ならぬ…………退くのだ」
王城から緩やかな軌道を描きながらトートが降り立つ。白い体毛の殆どを自身の血で汚しながら、身の丈以上の白い杖を構える。光の錫杖は幾重にも連なる魔法陣により、鈍く輝く。白光に痛々しく照らされる肉体を物ともせずにトートは荘厳な気配を途切れさせない。
「おっ、いいね。第二ラウンドか。おっしゃ、気合入れていこうや」
「待て」
「いきなり頭にカチコミ決めるたぁ、良い度胸じゃねえか」
シルヴィアとエイプリル、二人の団長が武器を構えて須王の前に立つ。現在の最高戦力であるトートは既に満身創痍であるならば、ここは体を張らねばならないと断じたのだ。
「下がってなジジイ様。おっ死んじまうぜ」
「エイプリル、口が悪いぞ。トート様、ここはお下がりください。我々にお任せを」
「…………いいや…………我輩も加勢しよう」
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