第36話
エンデル王国を見下ろせる小高い丘から須王は様子を伺う。王城周辺に住民を集め、避難所を形成している。
「おいおい、何で追撃するって分かってんだ……? ガチガチに守ってやがるじゃねえか……」
重い腰を上げ、城の奥に居るであろうトートを睨む。先日の迎撃を受け、鈍い攻撃では一瞬で踏み潰されてしまうだろう。
「だからこそ……電撃作戦しか無えよなぁ」
今回取れる最善は紛れも無くそれだろう。正面から、トートの邪魔が入る前に自身がトートとぶつかる事。一対一の状況ならば、きっと勝てる筈だと拳を鳴らす。
「さて、決まりだ。善は急げだな」
方々から救援が訪れる前に、須王はエンデル王国へと攻撃を仕掛ける。
――――
避難所の周囲を騎士団が巡回し、高見台から警戒する。そんな日々が流れている間に、遂にその時が来てしまった。
「むっ、西門の方角に怪しい集団を発見! 各員、警戒せよ!」
「了解ッ!」
西側の防衛を請け負っていたキャロルは駆け出し持ち場へと走る。崩壊した西門を踏み越えて、魔法兵の大群が進軍してくるのが見えてくる。
周囲の騎士達と肩を並べ、左手の中指に嵌められた指輪をそっと撫でる。
「ザインさん……」
不安に感じながらもザインへ救援を飛ばせずにいる。最強であると自称するザインも結局はただの一般人。キャロル達が守るべき市民を、危険な戦場へと呼び出す事に抵抗が生じているのだ。
そして不運な事に、キャロルはザインの境界の事を知らない。ただの強い魔法使いという認識しか無い以上、気合の魔法使いが飛び込んで来る戦場に呼び出す事など決して出来ない。
「『セイクリッド・ランス』」
だが、救援など必要ない。この場にはトートが居るのだ。迎撃の準備が万全であるのならば、そもそも外敵に攻撃すら許さない。
空を埋め尽くす光の槍が西側から攻め入ってきた魔法兵へと突き刺さる。圧倒的な魔法の暴力を前に、キャロルはほっと息を吐く。
「だろうな、オマエらしい。だがよ……不意打ちには弱いだろ?」
地獄の底から牙を軋らせながら頬を歪める。これも全て分かっていたと須王は強かに吠えた。
「…………?」
不意に、キャロルは空を見上げる。光の槍が撃ち尽くされ、西側の敵部隊が全滅させられた後に、それらは降って来る。
「くはッ――――吹き飛べ神格」
空から降り注ぐのは大量の魔法兵。文字通り、投げ飛ばされた兵達は王城の真上へと落ちてくる。
遠くから見たならばまるで烏の大群の様にも見えるソレは王城と、街の至る所へと散らばり、爆発を起こす。
「――――ッ」
音が消える、目前の建物へと降って来た魔法兵の爆発によりキャロルは大きく吹き飛ばされた。視界の中に炎と臓物の赤が入り交じり、背にしていた建物の中へと突き刺さる。
視界が黄色に染まり、耳鳴りが止まらない。顔を上げるが、平衡感覚がズレてもう一度地面へと突っ伏す。涎を垂らし、何度か頬を叩きながら上体を上げる。
気絶していた。キャロルがそれを自覚するのに大した時間は要さなかった。徐々に復活していく身体機能を確認しながら、どれだけの時間が経ってしまったのかを確認する。
時間にして一分程度といった所だろう。起き上がっていない脳味噌で必死に思考し下半身に力を加える。
「これ……は……あっ……?」
一度だけ態勢を崩すが壁に手をつき外を見る。通りを見れば数々の悲鳴と、進軍してきた魔法兵の影。
「ど、どうして……どこからっ!?」
単純な作戦。まずは西でトートの気を引き、迎撃を行った瞬間に空から魔法兵を降らす。王城、街全体にダメージを与えた隙に全方位から進軍する。
単純、故に強力で、この状況にこそ真価を発揮した。
気合の魔法使いとはどんな状況でも正面から突破する単純さでは無く、その時々の最善を選び抜く狡猾さを兼ね備えている。全力で、必要な事を、最適に行う。
それが須王達也の戦い方であり、生き方である。
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