第35話

 エンデル王国将軍ディールは残された騎士達を会議室へと召集し作戦を立てていた。


「現存戦力は先も言った通り、援軍にも時間が掛かる。外門の瓦礫は撤去したものの、急な要請だからな」


 街は門から一直線に吹き飛ばされ、城と門の中腹で綺麗に止まっている。それ以外の区間は無事とはいえ、恐怖自体を心に植え付けられてしまった。


「大通りの瓦礫は未だに撤去出来ていない。それ故馬車を用いた移動は不可能だ。歩きでさえ移動が制限されるだろうが、それは敵も同じだろう」


 各地方の騎士団長達は神妙な顔をし立ち並ぶ。街の機能は低下し、城への避難者は後を絶たない。


「我々はこのまま城の防衛を行う。手の空いた者で避難所のケアを頼む」


「将軍、発言しても?」


 肩を並べたまま、シルヴィアが口を開く。ここ数日の復興作業に疲弊を見せつつも、一切の衰えと隙を見せない。


「何かね?」


「城の防衛と仰られましたが、それ以外は? 次に彼奴ら魔法兵なる者が攻め入った際にどうするおつもりか?」


 ここに居る者達は何となくという直感で分かっているのだ、必ず二度目の攻撃が王都を襲うと。


「敵は稀代のテロリスト『気合の魔法使い』というではないですか。次に攻め入った際の作戦はお考えで?」


「……王城を防衛する。神格の方々、引いては王家の皆々様さえ無事ならばそれで良いのだ」


「……特聖を獲得した化け物が飛び込んで来るというのに……我々が戦力になりえますか?」


「口を慎め。我々は騎士だ。であるならば、仕える者こそを守るべきであろう」


 ディール将軍の言葉も最もだろう。しかしシルヴィアの言にも意はある。ただの雑兵である者達に、神話の再現を行える化け物を止める術は無いのだ。


「王家を守る、確かにそれもあるでしょう。しかし、私は力無き者を守る盾でありたい。今しがた考えていただきたい、我々が存在する意味と、価値を」


 騎士とは弱きを守る事を信条に、神話の存在に蹴散らされる駒であるとシルヴィアは暗に言う。蹴散らされるぐらいなら、少しでも多くの人を救おうとシルヴィアは一歩も引かない。


「…………ディール…………よい」


「トート様……」


 薄緑色の魔法陣から浮き上がるのは知恵の神であるトート。ダンタリオンが留守の今、エンデル王国での最高戦力である。


「…………気合の魔法使いは…………我輩が相手しよう。君達は…………民を守ればよい」


 厳かな雰囲気でありながら優しさも兼ね備えている存在感。誰もが思うだろう、彼さえ居たならば大丈夫だろうと。


「ハッ、神の御心のままに」


「感謝致します、トート様」


 城の防衛はトートが行いさえすれば、防衛可能な範囲は格段に広がる。実力の底を図る事は出来ないが、先日の一件を鎮めた実力は誰もが知っている。


「城の周辺に避難所を形成する。その周囲を我々で防衛し、王城は最少人数で守る。須王が現れたならば即座に退避しろ。トート様が対処される」


「――――ハッ!!」


 シルヴィアの言葉とトートの采配により、民を守る最適な陣形を立てる事が出来た。


 後は、攻め入るその時を待つばかり。




――――


「作戦は全軍突撃だ。トートの結界でどうせバレる。シセロが居ない今、隠密は捨て置け」


 エンデル王国周辺にある洞窟内で須王は軍勢を眺める。赤く目を光らせ、ゾンビの様だなと鼻で笑ってみせた。


 魔法兵に志願した兵は自殺志願者や退役軍人が殆どだ。精神に異常をきたし、人生を歩けなくなってしまった者達が、物言えぬ怨みをぶつける為だけに志願したのだ。


「とはいえ……攫って来た奴らも混ざってる……と」


 出来る事なら成人男性を素材にした場合の方が性能の振れ幅が少なく、兵器として完成はしているのだが、ポツポツと女子供の姿も見える。


 意思も無くダラリと頭を下げ、命令を待つだけの機械と成り果てている。


「ったくよぉ……どいつもコイツも喋れねえでやんの。ちっとは俺の作戦に賛同する奴が居てもいいもんだがよぉ……」


 禍奏団の正規団員は須王一人である。他の団員から嫌われている訳では無いが、須王の無茶苦茶な作戦に誰も付いて来れないのだ。


 気合の魔法使いはその名の通り、気合で全てを捻じ伏せながら直進するだけである。妥協無く、酔狂に殴殺を尽くす。


 その時に出来る全力を、全霊で尽くすのが須王達也だ。


「いや……嫌われてたりすんのか……?」

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