第9話
青色の短髪に紫色のインナーカラー。キリッとした表情からは男性らしさすら伺える女性。銀色の甲冑をこれでもかと着こなしている彼女こそがアストナーク騎士団団長、シルヴィア・クロフトその人だ。
「ふむ……君がザインか」
「はい、お初にお目に掛かります、クロフト団長」
詰め所にある応接室ではシルヴィアが出迎えてくれる。彼女が差し出してくれた握手に応じ、テーブルを挟んでソファに座る。
「うちの物から結界の経過を聞いたよ。『何処が悪いのか分からなかったが、何時も見ている結界に戻った』らしい。古株の団員でな、何時もは奴が整備をしているのだが、そんな奴が言うのだから直ったと見て間違いは無いだろう」
「確かに……俺には箔が無いですからね」
「まあ、確認を怠る訳にはいかんのだ。後、シルヴィアで構わない。君とは長い付き合いになりそうだ」
「分かりました。では、シルヴィアさんと。キャロルから話は聞いていますよね? このまま迷宮内の魔物の強弱を調査しても宜しいでしょうか?」
「その件に関してだが、後日でも構わないだろうか? 今はうちも忙しくてな、護衛に派遣できる人間が少ないのだ」
「ええ、ですから今すぐに見て回るというのを加味して報酬の上乗せをして欲しいのですが。護衛の方は必要ありませんので」
俺の言葉にシルヴィアは訝しげな表情をした。確かに彼女からしてみれば、俺の提案を安々と受け入れられないのだろう。
「待て待て、そんな事が出来る訳無いだろう。団長としては、一人で行かせるなど言語道断だ」
「ですので、入口近辺の魔物の調査をして平均値を取るというのはどうでしょう。それならば二人組でも入れはしますよね?」
入り口付近ならば二人組でも入れる。それよりも奥の層に行くのならば面倒な手続きが必要になり、人数も必要になる。
「まあ……そうか……そうだな。私とキャロルで付いて行こう。それならば全種類の魔物を見て回れる」
「お手数をお掛けします。すぐに終わりますので、手早く済ませましょう」
「手早く……。随分な自身だが、君は強いのか?」
「ええ、最強ですので」
――――
「へぇ……今はこんな測定器があるのか」
手渡された杖型の魔法具を確認する。綺麗に切り揃えられた三十センチメートル程度の棒。適量の魔力を流し相手へと振り翳せば、それが数値として確認出来る様になっている。
「リストと見比べながら確認していく。私から離れないように」
「は、はいっ!」
「基本的には俺が見るから、二人は周囲の確認だけお願いします」
「キャロルも試しに使ってみるといい。何時か使う時の為の確認としてな」
それぞれの装備を確認し、ゲートを潜る。薄緑色に発行する石で出来た道が迷路の様に続いている。渡された地図を確認しながら、それぞれの魔物が生息している地域へと移動を開始する。
「そうだ、折角だから土属性の魔法を色々見せてやるよ。授業の一環としてさ」
「……ザイン、ここは迷宮の中だ。最強を名乗るのは勝手だが、気を引き締めてくれ。そういう油断が、命を落とすキッカケになる」
当然の反応だ。俺を知らない者からすればただの見栄っ張りかイキリたがりの子供にしか見えないのだから。
「殺してもいい、殺されるべき存在しかここにはいない。魔物とは、そういう存在でしょう?」
迷路の先からブレードウルフが顔を出す。二人は順当に警戒し、戦闘態勢へと移行する。
「誰かの為じゃ無い。自分の為に、魔物の数を減らす。遺物には興味があるけど、今は魔法で手一杯だからな。俺が迷宮に態々近寄らない理由がそこだ」
一歩、二人よりも先ん出て魔物へと近付く。隙だらけの人間を見たブレードウルフが別々の通路から勢い良く飛び出す。
「危ないっ!」
「『アース・ウォール』」
地面から突き出すのは土の杭。魔物の数だけ突き出されたソレは正確に腹部の真ん中を貫いた。
「『アース・ウォール』は壁を作り出す魔法だけど、発動速度を極限まで上げると攻撃にも転用出来る。遮蔽物を作りながら、相手をその場へ留めつつ、相手への攻撃が出来る。だからこの魔法はC級でありながら凄く取り回しが良いんだよ」
杖を翳し魔物の状態を数値で確認する。リストと見比べ、それが正常値である事を確認できた。
「異常無し……キャロルも魔物が出たら試してみろよ。実戦で試せる機会なんて無いからさ、訓練の成果を見せてやろう」
まるで在り得ない物でも見る様な目で硬直している二人。俺の魔法の発動が特殊だとでも言いたげな表情にどう答えようかと思案していると、シルヴィアから声を掛けられる。
「……何処で魔法を習った?」
「……? 独学だよ、今までずっと」
「今までに見たどんな魔法よりも精巧で、常識を超えていた。一体どれ程の鍛錬を積めばそうなるのだ……?」
「言ったでしょう? 最強だって」
適当に返答をし迷宮の先を見据える。今の音に釣られて魔物も釣られた様だ。
「さてと……キャロル、おいで。授業の時間だ」
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