第4話

――――見つけた、私の王子様。


「はぁ……」


「どしたのキャロル、溜め息なんて」


 アストナークにある喫茶店の中で二人の少女が向かい合って座っている。一人は冒険者ギルドに所属するレオナ。もう一人はアストナーク騎士団に所属しているキャロル・ホームズである。


 金色の髪を三つ編みにし、碧色の瞳は窓に映る夢を見ているかのよう。幼い顔付きではあるが、これでもレオナの一つ上である。


「分からない? レオナ、私、恋をしているの」


「こい……?」


「ええ……燃える様に……それでいて冷たく、切ない……恋」


「相手は? 年上? 馴れ初めは?」


「名前は知らないの、彼ったら恥ずかしかったのかしら……私を手当てした後はすぐに離れていったのよ」


「森で手当てしてくれた人?」


「そう……塗れ羽烏の様な漆黒の髪に鋼色の瞳。儚げな表情は世界から隔絶された浮世絵のよう……」


「何なの、その喋り方」


 昼食時に怪我から復帰した友人の話を聞いてみれば、先程から夢見心地のまま呆けているばかり。レオナはその人物に思い当たる所がありながらもキャロルとの会話を続ける。


「レオナ、冒険者としての貴方に依頼をお願いしたいの」


「えぇ……想像はつくけどさ……依頼ならギルドを通してもらってもいいかな?」


「そんな小さな事を言ってるんじゃないのっ!」


 店内へと響き渡る。テーブルへと乗り上がりそうになりながらレオナへと詰め寄る。恋する乙女は盲目とは彼女の為の言葉だろう。


「だったら、これは個人的なお願いよ! 彼を見つけて!」


「だ、だって顔ぐらいしか知らないんでしょ? そんなの――――」


「報酬は弾むわ!」




――――


「……で?」


「……一回ぐらい……お茶とか……していただけませんか?」


 朝方、レオナが何時もの様に荷物を届けてくれた後にそんな恋話を聞かされた。何でも、キャロルという女の子が俺に恋をして止まないというらしい。


「その子はきっと病気だ。医者に診てもらった方がいい」


「退院したばかりなんです。その……色々と残念な子で」


「残念な子を紹介するんじゃない。そもそも、報酬って? 何に釣られたら俺を売ろうとするんだ?」


「……一万ゼニ―です」


「その程度で売られるのか……俺は」


「そ、その程度じゃありませんよ! 子供達にも何か買ってあげられますし……それに、それだけあれば魔道具や魔法書がどれだけ買えるか……!」


「本命はそっちだろ……まったく」


 まずいな、こちらとしてはそんな気はまるで無いというのに。確実に面倒な目に合ってしまうだろう。


「お願いします! 一万ゼニ―の為……いいや、違った。友人の恋を叶える為に、お願いします」


「本音が駄々洩れだぞ。一万で売られた俺の身になってみろ。涙が出そうだ」


 バツの悪い顔を見せながら一歩も引く気が無い。レオナからしてみれば俺を紹介するだけで一万ゼニ―なのだから安い物なのだろう。


「……もし、もしだぞ? 一回会っても彼女の気が変わらなかったら? そっちのが面倒だろ?」


「問題ありません! 作戦がありますから!」


「作戦……?」


「名付けて、『キャロルに一日で振られよう大作戦』です!」


 してやったり。レオナの顔にはそんな文字が見て取れた。何故だろう、嫌な予感しかしない。


「……嫌だ」


「どうしてですかっ!? せめて内容ぐらいは聞いて下さいよ!」


「……内容は?」


「よくぞ聞いてくれました! 作戦は名前通り、キャロル・ホームズに一日で振られる作戦です。まずは初対面、悪臭が漂う服を身に纏い不衛生な状態で待ち合わせ場所へ。そうすれば一撃で振られると思います! 持っても午後には撃沈ですよ!」


 レオナの額へと魔法書の角で攻撃する。


「ああんっ!」


「熱意は伝わった。ただしその作戦は無しだ。もう少し……きちんと考えようか」


「考える……って、じゃあっ!」


「行くよ、仕方が無いから。お昼ご飯を一緒に食べるだけ」


「ありがとうございますっ! これで買えなかったアレやコレが――――キャロルが喜びますっ!」


「ああ、もう……誤魔化さなくていいから……」

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