白い部屋

ここは不思議に静謐だ

生と死の狭間にいるひとを

見守っていることが嘘のように


時々、父は目を開けて

自分の輪郭を確かめるように

顔や頭をその手で、なぞるような仕草をする


少しずつ指先から体温が下がってきている

それが確かに近づいている別れの気配を

わたしに思い知らせる


窓から射し込む陽ざしが白い部屋を

仄かな蜂蜜色に染める

空調の音と父の呼吸の音だけがしている


何処か遥かを見ているような眼差しは

まるで童子わらべのように澄んでいて

それだけ父が遠ざかっていくようで


目を閉じた父の寝息が聞こえてきたから

わたしは切なさに耐えかねて

病室からそっと出ていく


目を覚ました父に笑顔でいられるように


残された時間を優しいものにするために

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