第五部

Macht(仮)

第132話

 タロッサの街を出発してから四日ほど経った。

 俺たちは魔導騎竜ドラグナーに跨がり、森林沿いの街道を爆走していた。

 

「ようやくルイドール領に入りましたな。この調子なら後もう四日ほど走らせれば港町に着きますぞ!」

「うぇ、まだそんなにかかるのか。いい加減バイクの旅も飽きてきたな」

「我らの目的地である港町トレムは大陸の東端ですからな。王都を挟んで真逆に位置するタロッサから向かうとなれば、相応の時間はかかりますぞ。むしろ、これでも早い方ですぞ! 馬車なら1ヶ月はかかります!」


 まぁ、言われればそうかもな。

 シャリオヘイデン王国は西大陸の半分を占める領土を持つ大国だ。その広大な領土を横断するのだから、それなりに時間はかかるわけだ。

 目的地まで真っ直ぐ直進できればもっと早いんだろうけど、生憎ここは発展途上の異世界。道が完全に整備されているわけでもないから、色々迂回したりする必要もあるしな。


「というより御者してるのアタシなんだからねっ!? あんた後ろでアタシにしがみついてるだけじゃない!」


 俺とエレノアの会話を聞いていたモニカが痛いところを突いてきた。

 いや、正論過ぎてぐうの音も出ねぇな。

 この四日間、運転はモニカにずっと任せっきりだ。

 いくら彼女が自ら希望して旅に同行しているとはいえ、そこまでしてもらってる中でさっきの発言は迂闊だった。


「あー……飽きたなんて言って悪かった。ずっと運転してるモニカが一番疲れてるってのに、ごめんな」

「……っ!? べべべ別にこれくらい平気なんだからねっ! アタシのステータスなら余裕よ!」

「そうか? でも無理すんなよ? 疲労って蓄積するらしいからな。……あ、休憩するときに一緒にラトの実でも食べるか? 実はタロッサを出る前に沢山買ってあってだな──」

「……」

「……モニカ?」


 急に無言になってしまったモニカ。

 俺が呼びかけてもぷるぷる肩を震わせるだけで応答がない。

 なんだ? やっぱり疲れてんのか?


「……ケント殿、それ以上はやめてあげてくださいですぞ。モニカ殿のライフはとっくにゼロですからな。にょほほほっ!」


 エレノアがニヤけながら意味深なことを言う。何を言ってんだコイツ。

 ついでにツッコミ入れとくと、お前はそのセリフを吐かれる側っぽいぞ。

 なんか笑い方が似てるし。おまけに眼鏡だし。


「にょ……何やら失礼なことを考えておりませぬか?」

「いや、気のせいだよ」


 なんで俺の周りに集まってくる奴は、こういう時だけ妙に鋭いんだ。

 

「……ッ? ちょっ……きゃ!?」

「うおッ!?」「にょおおおっ!?」


 とまぁくだらないことを考えていたら、モニカが魔導騎竜を急停車させた。

 慣性のうんたらかんたらに引っ張られ、俺はモニカに抱きつくような格好となる。


「っと……おい、停まるなら先に言ってくれよ!? 投げ出されるかと思ったぞ!?」

「ご、ごめん……でもあの子が急に茂みから飛び出してきたから……」


 モニカはそう言いながら、前方に転がる何かを指さした。

 魔獣でも飛び出してきたのか?

 そんなことを考えながら俺は、首だけを動かして前方を覗き込む。

 視界に映ったのは──路面に倒れ込む銀髪の少女の姿だった。

 体格的にはユーノと同じくらいの年頃に見えた。


「え……お、おい! 大丈夫か!?」


 状況を飲み込むために数秒思考したのちに、俺は慌てて少女へと駆け寄った。

 というのも少女の身に纏ったボロボロの衣服に、血のようなものが付着しているのが見えたからだ。


「待ってろ、すぐに回復してやるからな」


 咄嗟に俺はポーションを取り出すと、その栓を口で引き抜いた。

 それから抱え込むようにして少女の上体を起こした。


 ──その次の刹那、衝撃的な事実に俺は気がつく。


「……魔族アウロス?」


 無造作に伸びた銀髪。その隙間から覗かせていたのは、額に生えた小さな角だった。

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