第131話
それから少しの時間が過ぎて──正確には瑠璃子が落ち着きを取り戻し、何とか恋歌と対面で会話可能な状態になるまで待ってから。
星奈たちは空港内に臨時で設けられた作戦会議室へと集まっていた。
集まった理由は言うまでもない。今後の方針についての打ち合わせと顔合わせのためだ。
「……というわけで、今回の塔攻略作戦に参加することになった夢川恋歌でーす☆ 知ってるかもだけど超絶美少女アイドルやってます☆ よろしくねっ☆」
そんなわけで愛らしく自己紹介をするのは史上初の歌って戦うアイドル──恋歌だった。
パステルピンクとパステルブルーに彩られたツインテールを揺らしながら彼女は、完全無欠のアイドルスマイルを振りまいた。
「みんなも頑張ろうね☆ さくっと終わらせてみんなで観光しちゃいましょー☆」
そのテンションは、ポップコーンより軽い。
場違いな雰囲気を纏う彼女だが、それでも戦力としては申し分なかった。
なぜなら彼女の天職〝魔装士〟は、S級を名乗るに相応しい性能を持つからだ。
魔装具と呼ばれる専用装備を身に纏って戦うスタイルは、いかなる戦況であっても対処できる優れもので、その万能性は最優の天職と呼ばれる忍者に負けずとも劣らない。
むしろ役割に合った装備を装着できる点で言えば、忍者以上のパフォーマンスを発揮できる可能性があった。
「
続いて口を開いたのは陽子だ。
アイドルらしく明るく元気な恋歌とは真逆の性格を持つ彼女は、その雰囲気通りの簡潔な自己紹介を済ませた。
「えーっと、流れ的にウチらの番っすかね? 神坂星奈……天職はフツーの盗賊っすね。シクヨロっす」
二人の自己紹介が終わり、何となく空気を悟った星奈がそんな感じで挨拶する。
「あっ、雨宮瑠璃子ですっ! 神官やってます! そ、それと恋歌ちゃんの大ファンですっ……!」
星奈の次は瑠璃子だ。
推しを目の前にして彼女は、緊張した面持ちで精一杯の言葉を紡いだ。
「えへへ☆ 嬉しいなー☆ よろしくね、瑠璃子たん!」
「あっ……ふぁ、ふぅーっ! ひっひっふぅー! よ、よろしくお願いします!」
「瑠璃子、それラマーズ法っす……」
なぜか無痛分娩法を使って呼吸を整える瑠璃子。
それを見た星奈は、呆れた様子でツッコミを入れた。
「さて、お次は妾かの。妾の名はユーノ……今さら感はあるが、見ての通り亜人じゃ。初めて組むからには忠告しておくが、くれぐれも魔獣と間違えぬようにな」
「エイキチから聞いてマスからその点はノープロブレムでーす! ですが非常に興味深い存在でもアリマスネー! 是非ワタシのスキルでテイムできるか試してみたいデスヨォ……フフフ」
そう言って手をワキワキさせながらユーノを見つめるルーシー。
もちろん悪気は無いのだが、やはり亜人という希少な存在を前にして、それなりに興味を持っていたようだった。
「こらこら! 本人を前にしてそういう欲求を見せるでないわっ!」
「Oh……先っちょだけでもノーセンキュー、デスカー?」
「ダメに決まっておろう! そもそもそのセリフを吐くヤツは総じて信用ならんのじゃ! 星奈よ、こいつは危険人物じゃから気を抜くでないぞ!」
身の危険を感じたユーノは、星奈の背後に隠れながら拒絶の意を示す。
「フフフ、冗談ですヨ! ジャストジョーキング!」
「嘘じゃ! 妾のスキルの前では誤魔化せぬぞ!」
「や、死ぬほどどうでもいいんすけど。とりまウチを盾にしないでほしいっす」
なぜか板挟みにされた星奈は、嘆息しながら肩を竦めた。
「ふふ、皆さま早速、仲良くなられてとても良いことですわ。さて、大トリはワタクシでございますわねっ! 改めまして、ごきげんよう。ワタクシ、西園寺麗華と申します──」
最後に麗華がいつものお嬢様感満載の自己紹介を済ませ、今回の探索メンバーの顔合わせが終わった。
「紹介が終わりマシタネ! それでは作戦の説明を初めるデース!」
一段落ついたところで、ルーシーが今回の作戦について説明しはじめた。
壁に取り付けられたモニターの脇に立ち、指示棒を引き伸ばす。
「これが現在のワシントン記念塔デース。偉大なジョージ・ワシントンの記念碑も今ではすっかり邪悪なダンジョンへと変わり果ててシマイマシタ……悲しいデスネ……」
彼女はしょぼくれたリアクションと共に、画面に映し出された禍々しい魔塔を指示棒で指し示した。
「東京タワーとは様子が違うっすね」
「そうじゃな。役割としても全く別物なのじゃろうか?」
東京に発生したものとは異なり、この魔塔の周辺に雷雲は無い。
代わりに周囲に立ち込めているのは、濁った紫色をした霧だった。
「我が軍の解析部隊によるとタワーから噴出している霧は濃縮された魔素のようデスネ。どうやら周囲の魔素濃度を上昇させるのが目的のようデース」
「つまりは周囲の環境を変化させるのに特化した建造物ということですわね」
「その認識でノープロブレムデース! ちなみに他の州に発生したタワーも似たような機能を保有してマスネ。おかげで魔獣がメニーメニーでベリー困ってマス……」
そう言って深くため息をつくルーシー。ふざけた口調に聞こえるがそれはあくまでもユーノの自動翻訳のせいで、本人は至って真面目に憂いている。
「まぁでも今回でそのうちの一つを潰せますね☆ お互いウィンウィンでいいじゃないですか☆ 恋歌張り切っちゃいますよぉ! 謎のダンジョンなんてギッタンギッタンのバッキバキですから☆」
「恋歌、ファンの前で、そんな言葉使いをして良いのですか?」
「え? 別にいつもどおりですよ? ってゆーか、今ので東雲ちゃんが未だにDVD見てないことが丸わかりなんですけどっ!? え? 貸したの数ヶ月前ですよね!? もうほぼ東雲ちゃんの私物になってるんじゃないかってくらい長期レンタルしてますよねっ!?」
「……い、いつか、見ます」
恋歌に詰め寄られた陽子は、しまったと言わんばかりの顔で目を逸らした。
「それより本題に入ろうではないか。確か塔に入るには七名パーティーである必要があると言っておったな。それはどういうことなのじゃ?」
「よくぞ聞いてくれましたデース! 今から説明するのでモニターをチェックしてください」
ルーシーの言葉と共に画面が切り替わる。
映し出されたのはそれぞれ異なる地点から塔を撮影した様子だった。
「これは……入口がたくさん……?」
さっそく瑠璃子が疑問を吐露した。
というのも、魔塔の入口と思しき石扉は分割された画面全てに映し出されていたからだ。
写り込んだ背景が異なるため、角度を変えて同じ地点を映しているというわけでもない。
それはつまり、このダンジョンの入口が正真正銘四つあるという事を示していた。
「イエス! そのとおりデース! さらにこの扉には入場のための条件まで記載されていマス!」
瑠璃子の言葉を肯定したのちに、ルーシーはダンジョンの細かな仕様を解説しはじめた。
彼女曰く、この魔塔へ入場するための石扉は四つあり、そこには入場のための条件が記載されている。その条件というのが挑戦者のレベルと人数、それから他の地点の扉にそこの条件を満たした冒険者がいることの三点だという。
レベルに関しては、ルーシーが最初に言っていたとおり65レベル以上であることだ。
そして人数については正面の扉が一名、他の扉は二名の指定があるという。
「ふむ、つまりはここにおる七名で各々分担せねばならぬというわけか」
「しかも一箇所はソロで攻略しないといけないんすよね? 問題は誰がそこを担当するかっすけど……」
その場にいる面子を見回しながら星奈が呟いた。
「確かに悩みどころですわね。一番リスクが高いでしょうから、しっかりと検討する必要がありますわ」
「そうじゃな。基本的に神官系統はペアで良いとは思うが……しかしソロの方でアンデッドが出ても厄介じゃしな……そうなると闇属性も扱える妾が最適かの?」
一般的な考え方で言えば回復職はペアで入場してもらうのが最適である。しかしアンデッドが出てきた場合は聖属性や火属性魔法が使えた方が有利なのも事実だ。
「けどユーノちゃん。そしたら今度は回復職無しのペアができちゃうよ? それに他の扉にだってアンデッド系の魔獣が出る可能性もあるし……」
「それはそうなのじゃが……むう……」
瑠璃子の指摘に頭を悩ませるユーノ。
傍から聞いていた星奈や陽子も、少し考え込む。
──さて、どうしよう。
そんな雰囲気に一同が包まれる中、口を開いたのはルーシーだった。
「皆さん安心してクダサーイ! 正面の扉はワタシが担当しますからノープロブレムデース!」
「ふむ。
「ふふふ、心配ゴ無用デス! ワシントン記念塔奪還を任されるからには、私もそれなりにストロングデース! それに──」
「それに?」
自信に満ち溢れた瞳。
彼女はアメリカ人っぽく
「倒せなければ、テイムすれば良いのデース!」
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