第128話

「S級の冒険者じゃと? 私用で来た妾たちの案内人としては贅沢過ぎぬか?」

「そうですわね。ありがたいですが、国民の皆さまに申し訳ないですわ」


 ルーシーの自己紹介を受けて、ユーノと麗華がそんな風に呟く。

 二人が疑問を抱くのも無理はなかった。

 魔獣の災禍に見舞われているのは日本だけではなく、ここアメリカも同じような状況だからだ。

 そして言うまでもなくS級冒険者は貴重な戦力。

 私用で訪れた星奈たちの案内係を任せるにはあまりに贅沢な人選だった。


「お二人の言うとおりデスネ! 本来ならば私が出向く事ではアリマセーン! しかし今回は我が国の抱える問題をクリアするのに都合がよかったのデース!」

「都合が良い? ウチらに何かさせるつもりっすか?」


 星奈が問うと、ルーシーはうんうんと大きく頷いた。


「実はワシントン記念塔のダンジョンには入場条件がアリマス! あの塔へ入場するにはS級──正確にはレベル65以上の冒険者が7名必要なのデス! ワシントンDCを早く取り戻したいアメリカとしては日本のS級の手をお借りできるのは都合が良いのデース!」

「なるほど。狐塚さまがワタクシに参加しなさいと仰ったのはそれが理由ですのね」


 ルーシーの説明に、麗華が納得した表情を見せた。

 今回、麗華は星奈たちをアメリカに連れて行くだけでなく、冒険者としても参加する予定だった。

 彼女のレベルは既にS級相当だ。東京タワーの一件以来、関東圏の魔素濃度は異常なまでに上昇。それに伴って魔獣のランクも高くなり、その対応にあたる冒険者の平均レベルは大幅に上昇しているのだった。

 ちなみに以前からS級相当だった星奈や瑠璃子のレベルは80手前だ。彼女らは新たに定義されたSS級冒険者に認定されている。


「でも私たちの助けなんて必要なさそうな気がするけど……アメリカのS級冒険者の数は日本より多かったような?」

「そこは大人の事情なのデス。確かに魔素濃度上昇の影響でS級相当の人材は増えました。ですが国土の広さと比べて、その数はまだまだ少ないのデス!」


 瑠璃子の疑問にルーシーはあっけらかんと答えた。

 実はアメリカでは、ワシントン記念塔の他にもダンジョン化した高層建築物が存在していた。しかも、その場所はシカゴやアトランタ、ニューヨークなど様々だ。

 そのためアメリカの冒険者はどうしても戦力を分散せざるを得ない状況であった。


「そういうわけで皆さんとは、これからダンジョンを共に攻略するチームなのデス! これから施設を案内しますカラ、私についてきてクダサーイ! ちなみに和室はナッシングですからご了承デース!」


 彼女はカタコトの日本語で星奈たちを誘導しつつ施設の案内を始めた。


「本当に大丈夫なんすか? 何だか色んな意味で不安しか無いっすけど」

「妾に聞くでない……文句は狐塚に言うのじゃ」


 星奈とユーノはそんな事をぼやきながら、ルーシーの後についていった。



 ◇



「ここが皆さんのお部屋デス! 軍人用なので相部屋なのは許してくだサイ!」


 星奈たちが案内されたのは、空港内のテナントスペースを改造して作られた部屋だった。

 軍用に急造したせいか内装などで一部無骨なところはあるものの、宿泊するには十分な設備が整っていた。


「いや、妾たちにはこれで十分じゃ。別に観光しにきたわけでもないからの。それより塔の攻略はいつ始めるのじゃ?」

「オー! それならエイキチがあと二人、日本から送ってくれると言ってました! その方々がアメリカに着きましたらミッション開始デス! それまでゆっくりするデスネ!」


 そう言い残すとルーシーは、ひらひらと手を振りながら部屋を出ていってしまった。


「残りも日本からなんだ。琴音ちゃんたちのことかな?」

「局長に関係する冒険者といえば、それくらいしか思いつかないっすね」


 瑠璃子に答えながら星奈は、備え付けのベッドに腰掛ける。

 まだ攻略を始めることができないと知った彼女は、暇つぶしにスマホをイジり始めた。

 開いたのはいつも流し見しているSNSだ。


「まぁ、星奈お姉さまも〇ンスタやってますの?」

「いっ……何勝手に覗いてるんすか? 他人のスマホを覗くのはマナー違反っすよ」

「あら、ごめんなさいですわ。つい気になってしまって……でも実はワタクシもアカウント持ってますの。よかったらワタクシもフォローしてくださらない?」


 謝罪しつつ麗華はスマホを差し出した。

 そこに表示されたプロフィール画面を見て、星奈は驚愕する。


「フォロワー15万人……!? 何をしたらこんな数字になるんすか!?」

「さぁ? 淑女の在り方についての動画を上げていたらいつの間にか増えていましたわ」

「いったい何の需要があるんすかソレ……」

「それよりもお姉さまのアカウントはどれですの? ワタクシもフォローしますわ!」

「えっ、あ、あぁ……これっすけど……」


 麗華に催促された星奈は、渋々アカウント名を伝える。

 すると麗華からフォローされた通知が即座に星奈のスマホに表示された。


「ふふ、これで星奈お姉さまと相互フォローですわ! これも何かの記念ですし一緒に写真をアップしましょう!」

「だぁー! ちょっと何勝手に取ってるんすか!」

「おーっほっほっほっ! 心配せずとも、お姉さまの可愛さなら1万いいね間違い無しですわよっ!」

「ふふ、星奈ちゃんと麗華ちゃんはいつも仲良しだね」

「瑠璃子、笑ってないで助けるっすよ!」


 なぜかレベルで勝るはずの星奈の抵抗を物ともしない麗華によって、二人の自撮りが15万人のタイムラインに流れる事となった。

 ……その後、星奈のフォロワーが急増したことは言うまでもない。

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