第127話

「やっと着いたっすけど……なんか物々しい雰囲気っすね」

「えぇ……これではまるで軍事基地ですわ」

「うん、そうだね……」


 約12時間にも及ぶ空の旅を終え、ダレス国際空港に降り立った星奈たち。

 航空機から降りた彼女らが、最初に抱いた感想はそれだった。

 というのも周囲に観光客の姿はなく。星奈たちの視界に映ったのは軍人や冒険者。それから明らかに民間用で無い乗り物の数々だったからだ。


「ここはワシントン記念塔から近いからの。民間人はみな避難して、ここは魔獣対処の基地として活用されとるのじゃ」

「そうなんだ……どこも大変なんだね」


 滑走路に並べられた軍事用のヘリや戦車。

 装甲につけられた生々しい爪痕を目にして、瑠璃子は複雑な表情を見せた。


 魔獣にほとんど通用しないはずの近代兵器。

 それが損耗しているという事は、冒険者の手が回り切っていない証拠でもあった。

 冒険者は危険が伴う職業だ。故に進んで冒険者になる人間というのも限られる。人口や国土の広さと比べて、その数はあまりに少なすぎた。


 それでも今まではダンジョンという箱の中に魔獣が収まっていた。

 だからこそ少数でも対処できた。

 しかし魔獣が当たり前のように道路を闊歩するようになれば、そうもいかない。

 それこそ全人類に【活性化アクティベート】を義務付けて、ある程度は自衛してもらわなければ厳しいだろう。


 この地上に魔獣が現れるというのは、つまりはそういうことだった。

 

「ところで、この後はどうするんすか? ウチはこのままカチコミしてもいいっすよ」

「あぁ、それなんじゃが、管理局……というより狐塚が米軍と連携すると言っていてな。案内役を寄越してくれるそうじゃ」

「米軍と連携って……あの人マジで何者なんすか?」

「確かに不思議なお方ですわね。お父様とも昔から仲が良いみたいですし」

「なんかもう驚きも無いっすね」


 色んな意味で規格外な彼の胡散臭い笑みを頭に浮かべて、星奈は呆れた顔を見せる。

 そんな彼女を、大きな影が覆った。


「……?」


 日光を遮られた星奈は上空を見上げる。

 そこには大きく翼を広げる巨鳥の姿があった。


「魔獣……!? いつの間に……?」

「くっ……ウチのスキルにも反応無かったっす! 二人とも構えるっすよ!」

「うんっ」「わかりましたですわっ!」


 素早く【収納】バッグから得物を取り出す星奈と瑠璃子。


「いや、少し待つのじゃ!」

「何言ってんすか!? あんなバカでかい魔獣に接近されてるんすよ!?」


 応戦しようとする二人を、なぜかユーノが制止した。

 慌てる星奈を無視して、ユーノは瞳を青白く光らせた。


「やはりな……大丈夫じゃ。この魔獣は使役されておる」

「使役……?」


 星奈が聞き返した刹那、甲高い声が空から響いた。


「ヘイ! ガールズ! 待たせたデスネー!」


 ゆっくりと降下してくる巨鳥。

 柔らかそうな羽毛に包まれたその背には、ブロンドヘアを靡かせる少女の姿があった。

 巨鳥が一定の高度まで下がると、少女は地上目掛けて飛び降りて華麗に着地を決める。

 そして唖然とする星奈たちを指差しながら言った。


「エイキチから話は聞いてマス! 貴女たちが〝タワー〟に挑む者デスネ!」


 突如として現れた闖入者に、星奈たちは言葉を失う。


「な、なんて言ってるんすか……?」

「さぁ……? 私も英語はそこまで得意じゃないから……」


 というより、彼女らにはこの金髪少女の言葉が理解できなかった。

 ほとんど学校をサボっている星奈はもちろんの事、瑠璃子もペーパーテストの成績はそこそこだが、ネイティブと英会話ができるほど語学に長けていないのだ。


「ふむ。どうやらこやつが妾たちの案内役のようじゃな」

「えっ、言葉がわかるんすか?」

「当然じゃろう。妾のスキルが司るのは知識じゃぞ? それにスキルレベルも上がったからの。当然、リアルタイム翻訳も可能じゃ」

「なんかますますアシスタントっぽくなってるっすね」

「それを言うでない……それより、このままではお主らも不便じゃろう。ほれ」


 ユーノがスキルを発動させると、光の玉が星奈や金髪少女の額に入っていった。

 それに驚いた星奈は、確かめるように額を擦った。


「え? なんすかコレ?」

「心配せずともよい。これこそ【叡智の書ナンバーズ:セカンド】の新たな能力じゃ。妾がアクセスする知識の一部を共有する事ができるのじゃ。これで双方会話ができるじゃろう」

「ワオ! 凄いスキルなのデスネー! 私も皆さんの言葉バッチリデース!」

「確かに言葉が理解できるっす……ところで、なんでカタコトなんすか?」

「それはあれじゃ。サイトの翻訳を使うとちょっと変な時あるじゃろ? それなのじゃ」

「……やっぱりアシスタントじゃないすか」


 ユーノの説明を受けた星奈は、ぼそりとツッコミを入れた。


「それで……アンタはいったい何者なんすか? さっきの魔獣といい、ただの案内人ってわけじゃないっすよね?」


 星奈は気を取り直して金髪の少女へと問いかけた。

 先ほど彼女が騎乗していた巨大な鳥の魔獣を見る限り、彼女がそこらの冒険者でない事を星奈は察していた。


「オー! よくぞ聞いてくれマシタ! 私の名前はルーシー・キャンベル、デース!」


 素性を問われた少女は、外国人に有りがちな大袈裟な身振りでルーシーと名乗った。

 それと同時に米国仕様のステータスカードを印籠のように突きつけた。


「実はこう見えてS級冒険者なのデース!」

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