第124話
「勇者……? 勇者って、あの勇者か?」
エレノアから言われた事に対して、ついそんな反応を返してしまう。
「えぇ、あの勇者です! 五百年前に魔王を討ち滅ぼし、
「え? あ、いや俺が尋ねたのはそっちじゃないが……まぁ続けてくれ」
俺はRPGのジョブ的な意味合いで聞いたつもりだったのだが、エレノアが言っているのはこの世界──アルカナムにおける勇者のようだ。
しかしながら重要なのはそっちみたいだし、そのまま素直に話を聞くことにした。
◇
「──というわけで、勇者の活躍により人族は存続する事ができたのです! にょほほほ!」
吟遊詩人のように勇者の物語を語り終えたエレノアは満足気に笑った。
とりあえず話が長いので要約するとこうだ。
約五百年前ほど前、強力なナンバーズスキルを持った一人の魔族が魔王として君臨していた。そして魔王は魔族だけの世界を作るため人族や亜人を滅ぼそうとしていた。
その魔王が持つ【
無敵の魔王の下、魔族は勢力を大きく拡大。人族は滅びの一途を辿るばかりだった。
そんな時に現れたのが、勇者──零番のスキルを持つ人族の青年だという。
スキルにより魔王は不死身とも言える肉体を有していたが、勇者が振るう聖剣の前では通用しなかった。
勇者の活躍により魔王は討伐され、人族は再び安寧を取り戻した。
それがこの世界の人族に伝わる勇者の伝説だと言う。
「へぇ、そんな歴史があったのね。初耳だわ」
「わりと有名な話ですが、お二人とも全くご存じないのですか?」
「生憎、アクリ村はド田舎の小さな村だからな……吟遊詩人すらこねーよ」
本当に何にも無さすぎて、転生当時は暇すぎて発狂しそうだったからな。
ハイテクに毒された現代人にはキツイぜ。
「それより話を聞いてて思ったんだが、零番は本当に勇者のスキルと一緒なのか? 聖剣なんて俺持ってねぇぞ」
エレノアから聞いた話では、かの勇者は聖剣で魔王を討ち滅ぼしたと。
だが俺が持っているのは、ただの杖だ。
頑丈だけが取り柄の金属製の杖。とてもじゃないが聖剣には見えない。
つーか剣じゃねぇ。
「にょ! そうなのですか!? 一応伝承では聖剣で戦ったと伝わっていますが……まぁ、英雄譚とは時に脚色されて伝わるものですからな。もしかしたら実際のスキルとは異なるのかもしれません」
「あー……なるほどな。そういう可能性もあるか」
そうなると俺みたいに泥臭く杖で魔王サマとやらをぶん殴ってた可能性だってあるわけだ。そしてダサいから聖剣を持っている事にされた、と。うーん、ありえそう。
「しかし残念ですな……聖剣をお持ちなら、我が今風に魔改造して差し上げようと思っておりましたのに……」
「いらねーから心配すんな。一応専用装備っぽい杖はあるが……絶対渡さねぇからな」
「にょにょ!? どれ、我が一度調べてみましょうぞ……」
「渡さねぇっつってんだろ……」
マジでエレノアの魔改造はいらん。
〝
「それにしてもケント殿が勇者のスキルを保有しているとは……もしやケント殿は勇者の末裔なのでは!?」
そんな風に騒ぎ立てるエレノア。そんな彼女に向けてモニカが呆れた視線を向ける。
「うーん、スキルはともかく勇者の末裔とかじゃないと思うわよ? コイツとは幼馴染みだけど、そんな要素は一切無かったし。小さい頃なんてお漏らし──むぐっ!?」
「うおーい! 幼少期の過ちをさらっとカミングアウトするんじゃねぇ!」
俺は慌ててモニカの口を塞いだ。ふう、危なかった。
念の為に弁解しておくが、子供に戻ると感覚とかも子供になっちまうのよ。
前世の感覚で『まだ大丈夫だ』と思ってたら、急に尿意に襲われる時があるのだ。それも家からだいぶ離れた場所で。
さらには精神が変に大人なもんだから、外でするのも躊躇って我慢しちまってな。
……後はわかるな? つまりはそういうことだ。
「んむぅ……んんーっ!!」
「あ、悪い。忘れてた」
「ぷはっ! ちょっと! いきなり何すんのよ!?」
口を塞いでいた手を離すと、モニカは耳を赤くしながら怒ってきた。
「悪かったって。でも余計な事を言おうとしたのはモニカだろ?」
「うっ……。わ、わかったわよ……ふん」
言い返せなくて困ったのか、モニカはそう吐露して目を反らした。
「ま、話が逸れちまったがモニカの言う通り、俺は勇者の末裔なんかじゃないと思うぞ。自分で言うのも変だが、父さんも母さんも普通の村人だったしよ。家に代々受け継がれてきた勇者の証なんてのも特になかったしな」
そもそも俺の前世は日本人だ。アルカナムの人間ですらない。
なので勇者の子孫ってのは絶対にあり得ないだろう。
もっとも過去の勇者が俺みたいに地球から転生してきた可能性はあるがな。
零番はアルカナムの二十一の神のどれにも当て嵌まらない。
エレノアは確かにそう言っていた。
──ならば異世界はどうだろう。
あの白い少女が異世界の神──つまりは地球の神さまで、その権能をナンバーズスキルという形で地球人に与えているのだとしたら。
それなら五百年前の勇者と俺との間には、地球人という共通点が生まれるわけだ。仮説としては、これが一番腑に落ちるだろう。
(……なんて考えてもキリがないか。とりあえず中央大陸に行けば何かわかるだろ)
仮説は、あくまでも仮説でしかないからな。
あの白い少女についても、ナンバーズスキルについても。
神さまの言葉を信じりゃ、中央大陸にいけばきっと何か得られるはずだ。
「この際だから二人には言っておく」
「何よ、藪から棒に」
「そうですぞ! 藪からスティックですぞ!」
「……あんたはちょっと黙ってて」
「にょーん……」
エレノア……お前、そのうちモニカにぶん殴られるぞ。
「俺の目的地が中央大陸だってのは、前に言ったよな」
「えぇ、そうね。それがどうかしたの?」
「実は中央大陸に向かうのは、俺のナンバーズスキルが関係しているんだ。なんつーか……ナンバーズスキルを通じて神のお告げみたいなのがあってさ。そこで中央大陸に行けって言われた。それが中央大陸に向かう一番の理由なんだ」
俺は二人に向けて、中央大陸を目指す理由を告げた。
「だからこう漠然としてると言うか……中央大陸に着いたら何をすればいいのかもわかってない、そんな曖昧な状態なんだけど……」
何となく再確認したかったのだ。本当に俺についてくる気なのかを。
なにせ他人からすりゃ相当に馬鹿馬鹿しい理由だからな。
だけど俺の話に耳を傾けていたモニカはふふっと微笑んだ。
「勇者のスキルだが何だか知らないけど、別に万能じゃないんでしょ?」
「……そうだな。そう連発できるものでも無いし」
「だったら、決まりじゃない。最初に言ったでしょ? あんただけじゃ心配だから──あたしが最後まで付き合ってやるわよ」
モニカに続いて、エレノアもえへんと胸を張った。
「にょほほほ! そうですぞ、ケント殿! 中央大陸と言えばエルフの地! 我の知識は必須も同然! 任せてくだされ」
どうやら確認する意味はあんま無かったみたいだ。
そうか、と答えながら俺も釣られて笑った。
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