第123話

「にょほん。それでは私の知りうる限りの情報をお伝えいたしましょう」


 俺の問いかけにエレノアは咳払いをした後、【神の数字ナンバーズスキル】について語り始めた。


「まず初めにナンバーズスキルを語る前に知っておくべきは、天職ロロスとスキルの存在です。これに関してはケント殿もモニカ殿も何となくはご存知でしょう?」

「まぁ、ある程度は……神さまから分け与えられた恩恵だって聞いたことがあるわ」

「俺も同じくらいの認識だ。天職を授かった時、神官も似たような事を言ってたしな」


 天職とは神が与えた恩恵である。

 俺たちはそんなふんわりとした言い伝えを鵜呑みにして、これらの不思議な能力を疑いもせずに使用している。

 でもそれは仕方のない事だ。神の存在を肯定でもしなければ、スキルや魔法が引き起こす超常現象の説明がつかないのだから。


「にょほっ、ならば話は早いですな。ご認識の通り天職やスキルは、世界を創造したと言われる二十一の神の力──そして我々に与えられたのはその力の極一端です。しかしながら【神の数字ナンバーズスキル】はそうした従来のスキルとは異なります。かのスキルは、神が司る性質を具現化したものです。言わば神の力そのものですぞ!」

「ふーん、神さまの力ねぇ……でも、それってただ強い天職やスキルと何が違うの? 要するに強力なスキルってだけでしょ?」


 モニカがもっともらしい疑問をぶつけた。

 するとエレノアは玄人感たっぷりに人差し指を振って答えた。


「いえいえ! 全く違いますぞ! 例えばですが……戦士や槍使いなどの天職は、全て八番目の神が与えたと言い伝えられております。とある国にその神の【神の数字ナンバーズスキル】を保有していた英雄がいたそうですが、その者はこの世に存在する全ての武器スキルを扱えたそうですぞ」

「そりゃ凄いな。武を司る神さまの力をほぼ受け継いでるってわけか」


 つーか、めちゃくちゃチートじゃねぇか。

 戦闘職全部盛りってなんだよ。


 それに比べてうちのナンバーズスキルときたら……。

 最初はデメリットしかくれないし。覚醒したと思ったら、杖でぶん殴れだもんな。

 多分だけど、ほぼ同じ事をその英雄さまとやらはできるだろ絶対。


(ま、最終的にはとんでもない能力をくれたから良いんだけどさ)


 この際だし、改めて説明しようじゃないか。


 俺が新たに手にしたナンバーズスキル……その名も【輪廻の金鈴】は、他のナンバーズスキルを一定時間再現するスキルだ。

 複数のナンバーズスキルを同時に発動できないなどの制約はあるが、それでも十分過ぎる性能であると言えよう。


 ちなみにこのスキルで発動できるナンバーズスキルは、俺の記憶に依存するようだった。

 神さまモドキにそう説明されたわけではないが、今のところ発動できるナンバーズスキルが俺の知るものに限られているため、そう解釈している。

 

(まぁ、強い弱いはさておき。やっぱ、あの子は神さまなんだよな)


 エレノアの言うように、ナンバーズスキルが神の権能なのだとしたら。たびたび俺の前に姿を見せるあの白い少女は、やはり神さまなのだろう。


 いったい彼女の目的は何なんだろう。

 どうして俺なんかに、そんな力を与えたのか。


(それに、ちょいちょい息子扱いしてくるのも気になるんだよな)


 もしかして俺って半神半人……?

 って、そんなわけねーよな。

 俺に神の血が混じってるなら、妹の雪菜もそうなるじゃねーか。

 ま、雪菜は女神のように可愛いがな。

 

「大丈夫? そんな気難しそうな顔しちゃって」


 思考に耽っていると、モニカが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「ん? あぁ、悪い。ちょっと考え事してた」

「そう、ならいいけどっ……」


 俺が彼女の瞳を見つめ返すと、彼女はツンとそっぽを向いた。


「ところで、あんたもその【神の数字ナンバーズスキル】とやらを持ってるんでしょ? いったいどんなスキルをもらったの?」

「それは我も大いに興味がありますな! 我の知的好奇心がうずうずしておりますぞ!」


 モニカの問いかけにエレノアが同調する。

 興味本位で聞いただけのモニカはともかく。エレノアなら俺のナンバーズスキルがどんな神さまの力なのか、わかるかもしれないな。

 そう思って俺は質問に答えた。


「俺のナンバーズスキルはヌルだな……」

「ヌル……? はて、それは異言語アログリフでしょうか?」


 ああ、そうか。

 ヌルはドイツ語だから伝わらんのか。


「ええとだな、つまりはゼロだな。俺が持つスキルは、ナンバーズ:ゼロだ」


 俺がそう告げると、エレノアはまたしても口をぽかんと開いた。


「ゼ、ゼロですと……? それは二十一の神のどれにも当て嵌まらぬ異端の数字……かのが行使したスキルではありませんかっ!?」

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