第119話
「ここは……」
気がつくと俺は、白い部屋にいた。
俺が天職を授かった時と同じ、真っ白な部屋。その中央に佇むのは──
「あはっ、久しぶりだねぇ! 元気にしてたかい?」
あの時出会った白い少女だった。
まるで久しぶりに会った地元の友人みたいに笑顔でぶんぶんと手を振る彼女。
その姿を見て俺は思わずため息を吐いた。
「あのなぁ……普通それ聞くか? どっからどう見ても絶体絶命で、あと2秒後に死にますって感じのヤツにさ? 元気なわけねーだろ。死にかけてんだよ、こっちは」
この白い空間がどういう原理なのかはよく知らない。
だが、少なくとも先ほどのピンチを完全に回避できたわけじゃないだろう。
前回の時も俺の身体はちゃんと教会にあったみたいだしな。
意識が現実に戻れば、真っ先に魔獣の拳が降ってくること間違い無しだ。
「ふふ、それもそっか! あ、でも正確に言うと0.5秒後だよ? 君が死ぬの」
「どっちでもいいっての。それよりここは何だよ? もしかして転生モノでよくある神界的なやつか? ほら、あの転生先の説明を受けるやつ。だとしたら俺はまだ死んでねーぞ?」
頭を掻きながら俺が問うと、白い少女はにへっと笑う。
「うふ、場所なんてどうでもいいじゃん。それに転生させるつもりだってないよ? だって、君をまだ死なせるつもりはないんだもの」
「〝まだ〟って嫌な答えだな、おい。神様だか何だか知らねーが、そういうのはもう少し上手く隠せよな?」
何やら含みのある発言を受けて俺は目を細めた。
すると白々しい事に白い少女は、手で口元を隠す素振りを見せた後、あざとく小首を傾げて舌を出した。
「て、てへぺろ?」
「そんな化石みてーなスラングでよく誤魔化せると思ったな……」
いくつだよ、お前……って我ながら愚問か。
神様ならウン千歳は余裕で超えてるだろうに。そりゃ流行にも取り残されるわけだ。
「あっ、いま失礼な事思ったでしょ、君! そもそも僕には年齢って概念がないからね! つまりはノーカンってことだからね!?」
うわ、筒抜けじゃん。神様パワー怖すぎかよ。
「むむっ、これは真面目な話だからね? いくら僕の子でもそこは賢明であって欲しいところだよっ!」
「あー、わかったわかった……ったく。それで? さっきの不穏ワードは最大限譲歩して聞かなかった事にしたとして、俺はなんで呼ばれたんだよ? まさか雑談しにきたわけじゃないだろ? こんな謎空間に人を呼び出しといてさ」
俺が問うと白い少女はふっと軽く笑みを見せた後、ふらふらと踊り始めた。
「なんで僕が君を呼んだかって?」
あの時と同じ、纏った道化の衣装がよく似合う、奇妙で、それでいて心地よいステップ。
そして、あっという間に俺のすぐ傍へ。
「それは──君が諦めちゃってたからさ。せっかく条件を満たしたってのにさ?」
「条件?」
「僕が与えた
白い指がそっと俺の頬に触れた。
少女は目を細め、俺を愛おしそうに見つめる。
「いったい何の話だ? 俺の天職にはお前が言うようなスキルなんて無かったぞ。つーかそれ以前に天職固有のスキルが全くねぇじゃねぇか……」
俺が授かった天職にはスキルが存在しなかった。
持っていたのは、【神の家】のルールにより生み出された
それ以外は何のスキルも無かったし、レベルが上がっても増えることはなかった。
まさに無能の天職。予め会得していた固有スキルがなければどうなっていたことか。
「ふふ、いいんだよ。それが正しいんだから」
そう言って少女は手を俺の胸に当てた。
すると視界に見慣れたステータス画面が浮かび上がる。そこに書かれた内容を見て俺は驚いた。
「……は? スキルが、変化した?」
いつの間にか俺のスキルが変わっていたのだ。
変化したのは以前に手に入れた【型破り】という効果不明の謎スキル。それが、今では全く違うスキルに変化していた。
「今さら、くだらない数字なんかに縛られる必要はないんだよ。過去の君が歩いてきた道に、それはあるんだから。思い出したくなったら──ただ鳴らせばいい」
淡い光。俺と白い少女の間でふわふわと浮かぶのは、小さな鈴。
なぜだかそいつを手に取らないといけない気がして、俺は手を伸ばす。
「僕が司るのは絶対的な〝自由〟さ。神も、序列も、法則も。誰も僕らを縛ることはできやしない──さぁ、鳴らしなよ。そして、くだらない傍観者どもを驚かしてやろう」
俺が鈴を手に取ったのを見て、白い少女は蠱惑的な笑みを見せた。
「「──【
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