ナンバーズ:Null 編
第111話
翌日、俺たちは早速ギルドに立ち寄った。言うまでもなく、金貨の残り分を受け取るためだ。
ちなみに今日はエレノアはいない。あいつには金を持たせて、先に返済に行ってもらったのだ。
金を手に入れ次第、準備してタロッサを経つ予定だからな。面倒ごとは早めに済ませておくに越したことはない。
『父上に金貨袋を叩きつけてやりますぞ!』
なんて息巻いていたが、果たして大丈夫だろうか。確か、この街を治める子爵だとか言ってたけど……。
「お待ちしておりました! 査定ですが完了していますよ! それから橙級の登録証もお渡しいたしますね」
受付に行くと金貨でパンパンになった革袋と橙色のプレートを差し出された。
革袋を手に持つとずっしりとした重みを感じる。
「ちなみに査定額は金額82枚です! 昨晩お渡しした分を差し引くと52枚のお支払いですね」
「おぉ、なかなかの額だな!」
ロンゾさんから聞いた概算額を大幅に上回る査定結果に、俺は驚きを隠せなかった。
「ふーん、すごいじゃない……」
「なんだ? あんまり嬉しくなさそうだな」
「別に? いつもどおりよ」
なんだか素っ気ない態度を見せるモニカ。どうも今朝から機嫌が悪いみたいなのだ。
昨晩は奮発していつもより美味いもん食って、あんなに機嫌良さそうだったというのに。
わからん。女子わからん。あれか? 俗に言う女の子の日ってヤツなのか?
それはさておき。これならエレノアの莫大な借金を返済しても十分な資金が手元に残る。
次の俺の行動は決まっていた。
「よし、モニカ。後で武具屋に行こう」
「え? 装備ならこの前買ってくれたばかりじゃない?」
「今の装備じゃ強い魔獣相手に不足気味だからな。せっかく金が手に入ったんだし、ちゃんとしたのに買い換えよう。特に防具。もっと可愛いヤツ買ってやるよ」
「そ、そう……? ならいいけど……」
俺の提案にモニカは少し照れくさそうにしながら頷いた。
彼女もうら若き乙女だ。装備の見た目だって気になるだろう。こんなクソダサ装備、モニカには似合わないからな。
◇
そんなわけで。
エレノアの帰還を待った後、俺たちは冒険者ギルドの近くにある高級武具店を訪れた。
「ささっ、着きましたぞ! ここならケント殿の望む武具がきっと手に入るでしょう!」
「本当にすぐ近くだったな」
エレノア曰く、ここが最も高品質な武具を取り扱っているとの事だった。
情報の提供元がエレノアというだけで一抹の不安を覚えたが、まぁ間違いはないだろう。
何せギルド周辺は常に冒険者で賑わう。つまり武具屋にとっては最高峰の立地なわけだ。そんな場所に店を構えれること自体が情報の正しさを証明してくれている。
「ところで借金の方は大丈夫だったか?」
「ふっ、問題ありませぬ。耳揃えてきっちり返してやりました! 案の定、手のひら返しで復縁を求めてきやがりましたが、丁重にお断りしてやりましたぞ! にょほほほほ!」
相変わらず気色悪い笑い声を上げるエレノア。それを見たモニカが複雑そうな表情を見せた。
「……そ、それで良かったの? 詳しくは知らないけど、実の父親でしょ?」
「構いませぬ。父上は姉上の事ばかり気にかけていて、我の事は全く好いていませんでしたし。自分を毛嫌う人物を好けるほど、我は強くできてないのですよ。……それに復縁の目的は我ではなく我が持つケント殿との繋がりですから」
「俺との繋がり?」
「えぇ。竜種を倒せるほどの冒険者と縁を持つ事は、貴族にとっても価値がありますからな。我を通じて繋がりを保ちたかったのでしょう。我が言うのも変ですが、貴族とはそういうものです」
なるほどな。詳しいわけじゃないが、貴族ってのは感情よりも家の繁栄を優先して打算的に行動するイメージが強い。だからエレノアの言う事は恐らく本当なのだろう。
なんつーかコイツも色々と大変なんだな。
「それより店に入りましょうぞ! 店先で立ち話は他の方の迷惑になりますからな! さぁ、お二人とも」
「あ、あぁ……」「う、うん」
エレノアに急かされ、俺たちは店内へと歩みを進めた。
店内は高級武具店らしく、様々な種類の武器、防具が丁寧に飾られていた。
見栄えも品質もワンランク上の装備ばかりだ。
全て清掃が行き届いており、武器の手入れもきちんとなされているようだった。
以前行った中古武具店とは雲泥の差だ。あっちは格安の中古品が雑多に並べられているだけだったからな。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
店に入ってきた俺たちに向けて、早速店員さんが話しかけてきた。
ハスキー犬のような耳をした獣人のイケメン男性だ。
口調は丁寧だが獣人特有の引き締まった身体が服越しでもよくわかる。荒くれ者が多い冒険者だが、流石にここでバカをやらかすやつはいなさそうだ。
この世界じゃ、
タロッサのような大きめの街では普通に街中で見かける。反対にアクリ村のような少人数の村に住み着く事はあまりない。アウェイだし。
「当店の商品は少々値が張りますが……よろしいでしょうか?」
丁寧な物腰ではあるものの、若干の不信感を垣間見せる店主。
少しムッと来る物言いだが、仕方ないだろう。
手足だけ冒険者装備の俺に、中古品一式で身を固めたモニカ。
身綺麗ではあるものの明らかに冒険者の見た目ではないエレノア。
無理して冒険者デビューした新人感の否めない俺たちの見た目は、売り手からすれば不審者か冷やかしにしか見えまい。
「問題ない。これでも竜を倒したパーティーだからな。金貨も十分にある」
「……失礼ですが、登録証を拝見しても? 代表の方だけで結構ですので、討伐歴を確認させていただきたいのです」
「モニカ、登録証を出してやれ」
「え? あ、うん」
俺の指示でモニカは受け取ったばかりの橙級のプレートを店主へと差し出した。店主はそれを受け取り、カウンターにある魔道具らしきものでチェックを始めた。
ちなみにモニカの登録証を見せたのは、彼女がこのパーティーで最も優秀な天職とステータスを誇るからだ。つまりは見栄えの問題である。俺のステータスはエレノアの魔道具に依存するからな。
「ありがとうございます……こちらはお返しいたしますね。先ほどは大変失礼しました。私はノインと申します。この度はどのような装備をお求めでしょうか?」
モニカに登録証を返した後、ノインと名乗った獣人の男性は改めて俺たちに深々とお辞儀した。俺たちを顧客として認めたということだ。早速、俺は要望をノインへと告げる。
「まずこいつの装備を一新したいんだが、オススメはあるか?」
まず重要なのはモニカの装備だ。俺の〝疑竜人化〟は強力だが、発動までのスキが大きい。必然的にそのフォローはモニカにお願いする事となるが、魔獣のヘイトを一手に引き受けるというのはそれなりにリスクの高い役割だからな。
「お客様は
ノインは壁に掛けてある槍の一つを手に取ると、それをモニカへと渡す。
それは一般的な槍とは大きく形状が異なっていた。
先端には矢印型の刃が付いていて、どちらかと言えば銛に近い形状だ。
だが、その刃の大きさは一般的な狩猟用の銛とは比べ物ならないくらいに大きく、そして鋭利だ。
刃先は大きいが、無骨さは無い。むしろ洗練された刃のフォルムと細かな装飾によって高貴さすら感じさせる。ゲームで言えば、終盤に手に入るデザインと性能が両立された武器ってとこだろうか。
「これは〝ペネトレーター〟と言います。柄から刃先まで全て強化ミスリル製ですので見た目ほど重くはありません。柄の保護には水竜の皮を使っていますので摩耗に強く滑りにくいです」
ノインの解説を理解しきれていないが、とにかく良いものである事は間違いなさそうだ。
モニカは説明を聞きながら、軽く槍を構えてみせた。
「うん、確かにいい感じかも。スキルの恩恵かしら。持った瞬間から扱い方がよくわかるわ」
「なら、それで決まりだな。後は防具だが……」
「それなら我にお任せくだされ! モニカ殿にぴったりのモノを選定いたしますぞ!」
そう言いながらエレノアが大きく手を上げた。
「そうか? なら任せるか。ついでにお前も防具くらいは買っとけよ」
正直、俺は硬けりゃなんでも良いが女子には女子のこだわりってもんがあるだろう。
一応は同性であるエレノアを頼るのが良さそうだ。
「女性冒険者向けの装備はあちらにございます。試着の際はお声がけください」
「ささっ、モニカ殿! 我が最高に可愛くコーディネートして見せますぞ!」
「えぇっ!? べ、別に可愛さは何でもいいんだけど……」
「にょほほほっ、乙女に生まれた以上、それではダメですぞ! さぁこちらへ! おぉ、これなんかどうでしょう!? ここのリボンのワンポイントが素敵ですぞ!?」
食い気味のエレノアに困惑するモニカだったが、まんざらでもなさそうだ。
少し恥ずかしそうにしながらも、エレノアに言われるがままに商品を受け取るのだった。
「あいつら武器選びより遥かに楽しそうだな」
「女性の冒険者は見た目を気にされますからね。当店の防具はデザインにも拘っていますから、きっとお気に入りが見つかりますよ。……ところで、お客様は必要ないのですか?」
「あぁ、俺のスキルは素手で発動するんだ。防具に関してもマジックアイテムで補うから問題無い」
「武闘家系統でしたか。ではグローブとブーツだけ新調してはいかがでしょう? 後は専門店ほどではないですが、回復や加護の魔法を付与したアクセサリー類や【収納】を付与した鞄も用意があります」
確かに【収納】バッグは買っておいても良さそうだな。
冒険者は危険の伴う職業だ。いくらエレノアの魔法があるとはいえ、一箇所にアイテムを集中させておくのはリスクが大きすぎる。
それに回復魔法が付与されたアクセサリーも気になる。モノによっちゃ〝
「そうだな。ちょっと見せてもらってもいいか?」
「ありがとうございます。それではこちらへ」
ノインに案内され、俺は魔道具コーナーへと足を運ぶ。
それから諸々の説明を受け、いくつかのアイテムを購入することにした。
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