第106話
「……はぁ、なんか色んな意味で疲れたな」
無事に
ため息の理由? んなもん見てのとおりだよ。
「すごいじゃない! さっきのがエレノアの言ってた秘策ってわけね……って、なに辛気臭い顔してんのよ?」
「ん、あぁ……」
モニカがやや興奮気味に俺の元へと駆け寄ってきた。しかしながら俺のテンションが妙に低い事に気づき、すぐに顔をしかめる。
「ちょっと! あたしがせっかく褒めてあげてるんだから、少しは嬉しそうな顔しなさいよ!」
「そうは言ってもだな……あれだよ。今の戦闘で俺は色々と失っちまったんだよ」
「はぁ? なにそれ、意味分かんないけど……」
いや、むしろ分からなくていい。
ただでさえ幼馴染の腐れ縁なんだ。もし彼女が諸々の知識持ってたら、恥ずかし過ぎて首を吊ってるところだからな。
「にょほほほほっ! 素晴らしかったですぞ、ケント殿!」
モニカとのそんなやり取りに、エレノアが相変わらず気色悪い笑い声と共に割り込んできた。
あっぱれですぞと言わんばかりのテンションのまま俺の手を掴み取ると、そのままぶんぶんと縦に振った。
「色々と説明しようかと思いましたが、あれだけ使いこなせていれば問題ありませぬな! にょほほほほっ……にょおおおおお!? また我の頬をっ!? なぜれす! なぜれふか!?」
とりあえずムカついたので再度エレノアの頬を無言でムニってやった。くそ、柔けぇなおい!
「……」
ひとしきりムニってると、何やら横から冷たい視線を感じた。見れば、モニカがめちゃくちゃ不機嫌そうな目でこちらを睨んでいるではないか。
「な、何だよ?」
「……べ、別に! なんでもないわよ……」
「嘘つけ。なんか言いたそうな顔してるじゃねーか」
幼馴染ともなれば、だいたい機嫌の良し悪しくらいはわかるんだよ。いったい何に怒ってるのか知らねーけどさ。
「にょほほほ! どうやらモニカ殿もムニられたいようですぞ」
「ち、違うわよ!? そそそ、そんなわけないでしょっ!」
「なんだ、そういうことだったのか……いでっ!? いでででっ!?」
「だから違うって言ってんでしょっ! バカ!」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くモニカ。
わかったから。悪ノリした俺が悪かったから。謝るから、その怪力でツネらんでくれ。変身解除した俺は、か弱いステータスなんだよ。
「それよりも先に進まなくて良いのですか? あまりふざけ合ってる時間は、我々にないですぞ!」
お前が一番言っちゃいけねーセリフだよ。
◇
それから俺たちは、さらにダンジョンの奥へと進んだ。
道中に出てきた魔獣は漏れなく倒していく。少しでも経験値を溜めて、レベルを上げておきたかったのだ。
ここで遭遇する魔獣のランクはだいたいBからAランク。おかげで俺たちのレベルは、驚くほどの速度で上昇していった。格上が出る度にクソ恥ずかしい変身を決め込むのは癪だったが、パワーレベリングの魅力には抗えなかったのである。
ちなみに遭遇した魔獣は
この様子ならお目当ての
そんな期待を胸に抱きながらダンジョンを進み続け、ついに俺たちは最深部と思しき地点に辿り着いた。
「にょほっ……どうやら当たりを引いたみたいですぞ……?」
多機能な眼鏡──〝全能の眼〟を身に付けたエレノアは、小声で嬉しそうに笑った。
どうやら【熱探知】スキルで、いち早くこの先に潜む魔獣の存在を感知したようだ。
そして、その笑顔が示す意味はただ一つ。
──
「すごく綺麗……」
「あぁ……だな」
通路から大空洞を覗き込む。そこで眠っていたのは透き通る鱗に覆われた綺羅びやかな竜の姿だった。
その絢爛豪華な風貌に、俺たちは心奪われ、息を呑む。宝石なんかに一ミリたりとも興味がない俺ですら、そんな感じなのだから、その美麗さは相当なもんだ。
「まさに優麗の一言に尽きますな。されど相手は魔獣の頂点に君臨する竜種ですぞ。お二人とも気を引き締めくだされ」
「あぁ、了解した。ちなみに、そのダサ眼鏡であの竜のステータスはわかるか?」
「我が意図的にダサくしてるとは言え、直接本人に言うのは野暮ですぞ……ま、それはともかく、鑑定は勿論可能ですぞ。ヤツのステータスは──」
エレノアから教えてもらった敵のステータスはこんな感じだった。
────────────────────────────────
<基本情報>
名称 :蒼玉竜
種族 :鉱竜種
レベル :53
体力 :124328
魔力 :251435
攻撃力 :4259
防御力 :6012
敏捷 :2115
幸運 :2689
<スキル情報>
【竜魔法:氷】
【竜魔法:地】
【身体強化】
【水属性魔法耐性】
【地属性魔法耐性】
────────────────────────────────
高レベルの竜とだけあって、なかなかのステータスだ。とはいえ〝龍帝の帯紐〟を装備した俺のステータスなら十分に通用するレベル。ここで引く理由にはならない。
「ここまでの道中でかなりレベルも上がった事だし、【
「そうね……今の攻撃力が1500くらいよ。【
「攻撃スキル自体の倍率もあるしな。けど、今回はあくまでも補助に徹してくれ。敏捷ステータスの差が激しいからな」
「そうね、わかったわ」
モニカの持つ【
このスキルが倍増させるのは、あくまでも攻撃力と防御力のみ。敏捷や体力の値は一切上昇しないのだ。
敏捷が低ければ必然的に被弾が多くなるし、体力が低ければ攻撃を受け続けるのは難しい。そのため敏捷で優位を取れる俺が戦闘の中心となり、彼女には攻撃補助や、戦闘力の無いエレノアのフォローに徹底してもらうのが一番だと考えた。
「後は魔法攻撃の対処だが……」
もう一つの懸念は魔法攻撃だった。
知っての通り、魔法攻撃については耐性スキルの有無が、そのダメージ量に大きく左右する。だがしかし、俺はもちろん、モニカも魔法に対する耐性スキルを一切持ち合わせていないのだ。
前世じゃ魔法耐性の無い天職の冒険者は、魔法耐性が付与された防具などを装着して対処するか、もしくは星奈のように敏捷に特化し、回避する前提で立ち回るのが一般的だ。
「敏捷ステが上回ってる俺ならともかく、問題はモニカとエレノアだよな」
「そうね……魔法対策の装備やアイテムなんて高価だから買えなかったし……」
〝
もし彼女らが魔法攻撃の標的となれば、文字通りひとたまりもないのだ。
「それでしたら我にお任せください。莫大な借金は何も趣味だけに注ぎ込んでおったわけではないですからな。ちゃんとその辺の対策アイテムも製作しておりますぞ」
エレノアはふふんと得意げにしながら、【収納】魔法を発動させた。生み出された空間の裂け目から、とあるアイテムを取り出す。
「これは……盾かしら?」
彼女が取り出したのは、円形型の小さな盾だった。
俗に言うバックラーってヤツだ。あるいはラウンドシールドとも呼ばれ、ゲームなんかでその存在を知る人も多いことだろう。
基本的には対人戦で相手の剣を払ったり、受け流すために使用される盾で、面積的にも竜の
実際、鏡面仕上げの金属プレートの中心には魔石が嵌め込まれており、物理的に攻撃を防ぐような構造じゃなさそうに見えた。
「これは〝
みかがみの盾……? なんか聞いたことあるな。
いやでも、あんまり掘り下げるのはやめとこう。なんかアウトな気がするし。
「へぇ、すごいじゃない。これなら魔法攻撃も大丈夫そうね。このタイプの盾なら篭手みたいに腕に装着できるし、あたしの槍術の邪魔にもならないわ」
「あ、当然ながら一定量を防ぐと魔石を取り替える必要がございますから、使いすぎに注意ですぞ。とはいえ、ここの至るまでの道中でBランク以上の魔石を多く確保しましたからな。大きな問題はないかと思いまする」
確かに俺の男としての矜持やら何やらを犠牲にして腐るほど倒したからな。その辺の心配は無さそうだ。今じゃ誰よりも滑らかに変身ポーズを決め込む自信があるぜ。
「さて、それじゃあ方針も決まったことだし、いよいよ始めるか──ドラゴン退治ってやつをよ」
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