第107話
俺はおもむろにポーズを決める。こっ恥ずかしいが、これからドラゴンと殴り合うために必要な儀式だ。羞恥心を抑え込み、そして宣言する。
「──〝
ベルトから発せられる軽快な音楽。その音が洞窟内に嫌に響いた。
当然ながら
「今の音でこっちに気付いたみたい!」
「ああ、わかってら! 変身を終えるまでフォロー頼むぞ!」
魔力を練り上げる。そんな気配を感じた。見れば、蒼玉竜の頭上に大きな氷塊が浮かんでいる。
どうやら特撮番組と違って、律儀に変身完了を待ってくれる優しさは持ち合わせていないらしい。容赦なく、その氷塊が撃ち放たれた。
「来ますぞ! モニカ殿! 今こそ盾を使うのです!」
「わ、わかってるわよ!」
エレノアの指示でモニカが俺の前に躍り出た。
腕には先ほどエレノアから渡された神鏡の盾。その何とも頼りない小さな盾を、何倍も大きい氷塊へと向けた。
──キィィィンッ!!
魔法的な何かが発動。飛来した氷塊は弾かれ、そして瞬く間に霧散した。
「にょほほほ! これぞ我の生み出した対魔法用防御術式──その名も〝
おい、マジでやめろって。そういうの。これからお世話になるところなんだから。
とまぁ、そんなメタ発言はさておき。モニカが魔法攻撃を防いでくれている間に俺の準備が整った。霧を身を隠す盾にして、俺は飛び出す。
「【
何度か使用してみて気付いたのだが、この〝
いや、制限というよりかは【魔拳術】スキルが変質すると言った方が正しいだろうか。
これが呪いの影響なのか、それとも最初からそういう仕様なのかは定かでないが、とにかく言える事は一つ。現状で使えるスキルは、この炎属性の【
──故に、変身しようがしまいが、俺の行動は変わらない。
できるのは、ただひたすらにこの蒼玉竜をぶん殴ることだけだ。
『ギュオオオォォォォッッ!!』
俺の奇襲は見事に成功。灼熱の鉄拳を食らった
同時に敵対心をこちらに向けることもできたみたいだ。その獰猛な眼が俺の姿を捉えるや否や、その周囲に多数の魔法陣が展開された。
「はっ、手数で勝負ってわけかよ。モニカ! エレノア! 流れ弾に注意しろよ!?」
「えぇ、わかった!」「はいですぞ!」
忠告した次の刹那。数多の氷柱が矢の如く降り注いだ。
俺はすぐさま後方へ跳躍して、回避に徹する。避けきれない分は拳でぶん殴って砕いた。
「こんなもん塔のボウガントラップやら日坂さんの【
数々の弾幕を避けてきた俺にとって、この程度は造作もない。たとえステータスが低下していたとしてもな。
「お返しだ! ──【
打ち止めになった頃合いを見計らって、俺は接近。灼熱の一撃を放たんと右拳に力を込めた。
だがしかし、突然迫り上がった岩壁が俺の視界を遮った。
「なっ!?」
ちくしょう、流石にこりゃ貫通できねぇか。
「構わないわ、ケント! そのままぶん殴っちゃいなさい! ──【
失敗を悟った俺の耳に、モニカの声が響いた。そして次の刹那には岩壁に閃光が飛来。そこに小さな孔を穿った。
「さんきゅー、モニカッ! これだけありゃ十分だ!」
俺はそのまま獄炎を纏った拳を、その孔へ目掛けて突き入れた。
モニカが穿った孔を起点に、分厚い岩壁にヒビが走り、そして──ガラガラと砕け散った。
──崩れ落ちる岩の隙間、
まさか自らの魔法を拳で破ってくるとは──そう言っているような気がした。
もちろん、魔獣との意思疎通なんて芸当はできやしない。なんとなくそう思っただけだ。
『ギュオォォッ!!』
竜は早くも次の攻撃動作に入っていた。
大口を開け、俺を噛み砕かんと獰猛な牙を剥き出す。
魔法寄りのステータスだが、ちゃんと近接戦闘も出来るらしい。
右拳に纏わせたスキル効果は先の岩壁を破壊した時点で失われていた。
それでも俺は竜に向かっていく。
脳裏に浮かぶのは、彼女の姿。癪ではあるが、今の俺が真似るべきは彼女の戦闘スタイルだ。
「【
俺が放った左拳のアッパーが竜の顎を、その牙を砕いた。
顎への強烈な一撃。脳を強く揺さぶられた
「へっ、俺を倒したきゃ──左も防がねぇとな?」
皮肉っぽく吐き捨てた刹那、その巨躯が地に崩れ落ちた。
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