とある酒場にて

「あぁ……思い返しただけでも腹が立つな! あのクソ女め……!」


 タロッサの商業区。路地裏にひっそりと店を構える酒場にて。金髪の冒険者──ハインツは忌々しそうに吐露しながら麦酒エールを呷った。

 彼が腹を立てているのは他でもない。先日、自分に大怪我を追わせたモニカに対してだった。

 ハインツにとって格下である白級冒険者をパーティーへ誘うなど、慈善以外に理由などない。つまり、先日のあれは〝心優しい先輩冒険者である自分が仕方なく誘ってやった〟だけ。彼は心の底からそう思っていた。

 そんな自分の誘いを、あの女は断るどころか殴りかかってきたのだ。それも大衆の面前で、己の力を誇示するがの如く、暴虐的に。

 自尊心の高いハインツにとって、これほど屈辱的な事は無かった。


「上位天職かなんだか知らないけど、ちょっとステータスが高いからって粋がりやがって……くそっ!」

「ですから、やっぱりあん時に懲らしめときゃ良かったんすよぉ……あの見下したような目、あいつら絶対ハインツさんの事を馬鹿にしてますって!」


 そんなハインツの愚痴酒に付き合うブルーノは、彼に習って麦酒エールを呷りながら、そんな風に答えた。


「ふん! そんなことは当然わかってるさ! だけど、タイミングを考えろ! お前があそこで暴れまわったら、それこそ僕の計画が台無しだろう!」

「うっ……! それは、すみません……ついムカついちまって……」

「まぁ、いいさ。お目当ての物は手に入ったわけだしな……」


 そう言ってハインツは懐から小瓶を取り出す。薄紫色の液体が入ったそれを眺めて、彼はにやりとした笑みを見せた。

 そんな彼の様子を見てブルーノは、少しだけ心配そうに呟いた


「本当に大丈夫なんすかね……」

「なんだ? 今さら臆したとでも言うつもりか?」

「それじゃなくて、もう一つの気色悪いヤツですよ……あんなの呪われたアイテムにしか見えないですぜ? あんなもん置いてるなんて、あそこはきっとまともな店じゃないですって……あんまり関わらない方がいいと思いますけど……」


 ハインツが取り出した小瓶。それとは別のモノを、ブルーノは頭に浮かべていた。


「ふっ、心配するな。あっちはあくまでも保険だ。別に僕だって人殺しがしたいわけじゃないからな。むしろあんな上玉、殺すなんて──だろう?」

「そりゃあ、そうですけど……大丈夫なんですかねぇ……」


 下卑た笑みを浮かべるハインツを見て、ブルーノはただただ、不安に思うばかりであった。

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