第103話
「ここらで少し休憩するか」
「そうね。流石にちょっと疲れたものね」
コボルトを掃討し終えた俺たちは、その後も何匹か魔獣を狩った。幸いにも今のところ危険な魔獣とは遭遇しておらず、順調そのものだ。
とはいえ昔と比べてステータスに大きな差がある以上、無理は禁物である。運良く手頃な岩影を見つけた事も相まって、俺たちはしばし休息を取ることにした。
しかしながら【聖域】がないので以前のように菓子を頬張りながらくつろぐなんて贅沢はできない。周囲を警戒しつつ肉体を休ませるだけだ。
(それにしても……ある程度見晴らしの良い場所は見つけたが、それでも気は抜けねえな)
この時ばかりは、この雄大な自然が憎たらしい。岩場や背の高い植物など、周囲はいかにも魔獣が潜んでそうな場所だらけ。つまり、それだけ注視しておかねばならない場所が多いってわけだ。
「エレノア、とりあえず最初は見張りを頼む。まずは、うちの
「にょほほほ! お任せあれ! この我ほど、見張り役に適した人材はおりませんぞ!」
まずは優秀な索敵系スキルを持つエレノアに、見張りをお願いする事にした。あの課金ゴーレムを安易に使えない以上、三人の中で戦闘力がもっとも高いモニカのコンディションを整えておくのが安牌だからな。
「助かるわ。それじゃお願いね」
そう言ってモニカはポーチから水筒や干し肉を取り出して、栄養補給を始めた。俺も今のうちに現在のステータスを確認しておく事にした。
現状のステータスはこうだ。
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<基本情報>
名称 :ケント
天職 :
レベル :14
体力 :794
魔力 :5420
攻撃力 :93
防御力 :62
敏捷 :55
幸運 :155
<スキル情報>
【型破り】SLv9(ユニークスキル・進化可能)
【洞察眼】SLv7(ユニークスキル・進化可能)
【破壊王】SLvMAX(ユニークスキル)
【肉壁】SLv6(ユニークスキル)
【魔拳術】SLv7(ユニークスキル)
【細胞活性】SLv8(ユニークスキル)
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(もうレベル14なのか。あっという間だな)
まだ冒険者家業を始めて数日だが、思いのほか成長スピードは早い。以前はレベル12に到達するのに1ヶ月ほどかかった事を考えれば、三倍以上の速度でレベルアップしている。
(やはり適正レベルの魔獣と戦えるのが大きいな)
俺がナンバーズスキルを覚醒させる前は、ゴブリンを倒すのが精一杯だった。それで貰える経験値が徐々に不足していたのがレベリングに時間を要した原因だろう。
この世界じゃモニカという心強い仲間がいる。ランクに見合った魔獣を狩っていけば、30レベルくらいまではあっという間に駆け上がれそうだ。
「見れば見るほど、魔法使いって感じのステータスね、あんた」
鑑定板を眺めて思考していたところ、干し肉を咥えたモニカが話しかけてきた。横から俺の鑑定板を覗き見て、そんな事を言う。
「まあな……きっと前世じゃ賢者だったのさ」
「あははっ……なにそれ! あんた、そんな柄じゃないでしょ!」
俺の返しはジョークとして受け止められたらしい。おかしそうに笑うモニカ。
「うるせー、こう見えて頭脳派なんだよ」
ま、性格的に後衛っぽくないのは自覚してるさ。でも世の中ってのは不思議な事だらけでさ。こんな俺でも昔は確かに賢者だったんだよ。ただし、主な攻撃方法は物理だけどな。
「ところで、あんたの
「ん? あぁ、これか。ぶっちゃけ俺にもわからん。文字通りの意味なら、そのうち別のスキルにでも変わるんじゃないか?」
進化とは、そういう意味だ。あながち間違いでもなかろう。ちなみに進化に関して、その条件は特に記載されていなかった。もしかしたらスキルレベルが最大に達すれば、勝手に進化するのかもしれない。
進化可能な二つのスキルのうち、最もレベルが高いのは【型破り】だ。コイツのスキルレベルがマックスになれば、また何かわかるだろう。
「ふーん……そういうスキルもあるのね。あたしもレベルが上がればそういうスキルを覚えるのかしら?」
「どうだろな。
前世でも冒険者をやっていただけあって、俺は様々な天職の知識を持っている。しかしながら進化可能なスキルが存在するなんて情報は、これまで一度も耳にしたことがない。
そんな会話をモニカとしていると、エレノアが敬礼しながら声をかけてきた。
「ケント兵長! 報告がありますぞ!」
「勝手に俺を兵長にするんじゃねぇ。いつからここは調査兵団になったんだよ」
「にょほっ、そうでした!」
「……んで、どうした? 魔獣か?」
ミリオタみたいな口調で報告してくるエレノアに、俺は呆れ声で返した。
「実はですな、あちらにある岩の窪みに少し違和感がありまして……」
「違和感?」
「えぇ、そこだけ我の【熱探知】が上手く機能せず。どうやら空間の歪みがあるようなのです。これは恐らく〝ダンジョン〟があるのではないかと」
「……ダンジョンだと?」
耳慣れた単語に、俺は思わず聞き返した。
「えぇ、ダンジョンです。ケント殿は存じないかもしれませんが、アルカナムにはダンジョンと呼ばれる不思議な迷宮がいくつか存在しております。その内部は我の【収納】魔法と同様、亜空間となっていて、小さな洞窟がとんでもなく広大な迷宮になってる事もあるのですよ」
「なるほどな」
どうやらこの世界にもダンジョンという概念が存在するらしい。おまけに亜空間とな。
地球におけるダンジョンとは、この世界の一部が繋がっているものかと思っていたが、そうでもないようだ。どちらかと言えば、ダンジョンという存在自体はどちらの世界においても別次元に存在しており、その入り口がそれぞれ存在しているという考え方が一番近いだろうか。
「しかし、新たなダンジョンですか。ギルドに報告するだけでも情報料がたんまり手に入りますなぁ! にょほほほ!」
「そういうものなの?」
「にょほほ、ダンジョンは外より魔素濃度が高く、資源やマジックアイテムの宝庫ですからな。近頃はダンジョンの消失現象が発生しているせいもあってか、発見者への情報提供報酬が引き上げられたのですよ!」
「ふーん、そうなのね。それにしても……迷宮が現れたり、消えたりって不思議なものね。空間自体に魔法がかけられているのかしら?」
エレノアの話を聞いて、モニカが不思議そうに呟いた。
(消失現象ね……)
ダンジョンのイロハをひと通り知る俺は、その存在自体に大した驚きはない。エレノアとの会話の中で興味が湧いたのは、どちらかと言えば消失現象の方だ。
消えてしまったダンジョンは、一体どこへ行ってしまったのか。その行き先に俺は心当たりがあった。
(この世界から消えたダンジョンが、地球で発生している? いや、確実にそうだよな。それで辻褄が合うし)
なぜそんな事が起きているのかまではわからない。だが、起きている現象については、これで説明がつく。
「にょふ、
眼鏡のつるを摘みながら、判断を仰ぐエレノア。モニカも「どうする?」と言わんばかりの表情で俺の顔を見る。
二人の少女から決断を迫られた俺は、迷いなく答えた。
「そりゃ決まってるだろ。お前の借金を返済せにゃならんのだから、選択肢は一つだ。そもそも10レベル如きが竜を討伐しようってのに、今さら危険もなにも無いだろ」
バイク型魔道具もそうだが、エレノアの能力と知識はこの先の旅路に必要だ。ならば、ここは意地でも竜を討伐してみせよう。たとえ、そいつの居場所が危険な迷宮の奥底だとしてもな。
「探索開始といこうじゃないか」
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