エピローグ

エピローグ

 ──とまぁ、ここまでが俺のの記憶ってやつさ。

 

 ちっとばかし長いかもしれんが、飽きはしないだろ?


 正直に言うと、その記憶が現実なのか、虚構なのか。俺には区別がつかない。もしかしたら俺の豊かな感性が生み出した、壮大な妄想世界のお話かもしれない。


 なぜなら、確かめる術がないからだ。


 記憶の中にしか存在しない世界ってのは、夢と一緒なのさ。夢は夢でしかない。どれだけ現実に迫るものがあったとしても、それは変わらない。そう思えるのは、それが記憶という形でしか残らず、決して触れる事が叶わないからだ。

 その確からしさを証明するには、もう一度五感で感じなきゃならねぇ。


 だから俺は──この日を待ち望んでいた。



! ちゃんと起きてるー!? まさか今日が何の日か忘れてないでしょうねっ!?」


 玄関先から騒がしい声が響いた。それからすぐにガタンとドアを開く音。狭い平屋のため、中に入ってきた人物の姿がすぐに目に入った。


「ちゃんと起きてるって。てか、返事する前に勝手に入ってくるんじゃねーよ」

「別にいいじゃない。あんたってば寝る時以外は、うちに居ることが多いんだし。もうここは離れみたいなもんでしょ」


 我が物顔で自宅に入ってきたのは、淡い翠色の髪をした少女だった。彼女の名前はモニカ。俺の幼馴染であり、それでいて家族のような存在だ。

 

 ……家族の、という表現は少し語弊があるな。もはや彼女は家族だ。

 

 というのも、俺の両親は俺がまだ小さい頃に魔獣に襲われて亡くなっている。確か6歳の頃だったかな。両親が亡くなった知らせを受けたのは。その時から俺は家族と呼べる存在を失い、一人ぼっちになった。

 そんな俺を迎え入れてくれたのが彼女──モニカと、そのご両親なのだ。


「ま、そう言われちゃそうなんだけどさ」


 そんなわけで彼女の言い分はある意味正しい。

 

「ならいいじゃない。そ、れ、と、も……何か言えないような事でもしてたわけぇ?」

「んなわけねーだろっ!?」

「あははっ、冗談に決まってるじゃない。それより早くうちに来てよね? ママが朝ごはん作って待ってるんだから」

「……ああ、わかったよ」


 彼女に急かされ、俺はベッドから降りて靴を履く。前世の記憶があるとは言え、16年も過ごせば洋式の暮らしも慣れたもんだ。それから俺は適当に指で髪を整えると、モニカと共に家の外へと出た。


「……今日もいい天気だな」


 柔らかな朝の日差しが眩しい。


 澄み渡った空気。パンの焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。周囲を豊かな自然に囲まれたこの村──アクリ村は、良い意味でのどかだ。

 前世の記憶的に言えば、ヨーロッパの片田舎みたいな景色と言うべきか。不便なことも多いが、だからこそ日々の生活の大変さは充実感へと変わり、綺麗な景色は心に活力を与えてくれる。

 少なくとも前世で暮らしていた都市……東京では決して味わえない感覚だった。


「……なんて感想が湧くのも、そもそも日本の記憶あってこそか」

「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ。ほらっ、さっさと行くわよ」


 言いながら、俺の手を取って引くモニカ。

 その柔らかな感触は、確かに現実のもので。


「わかってるって。ちゃんと歩けるから、そんなに引っ張るんじゃねぇ」


 間違いなく俺は──ここに存在している。

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