第76話

 ダンジョンから帰還した俺たちは西園寺さんと一旦分かれ、ホテルに戻る事にした。

 まだまだ日は高い。これからユーノたちと合流して遊ぶために荷物を置きに来たのだ。


「あ、そうだ。星奈に預けたいものがあるんだよな。着替える前にちょっといいか?」


「預けたいもの?」


 俺の言葉に星奈がきょとんした表情を見せる。


「あぁ、ボス素材はダメにしちまったからな。代わりってわけじゃないが、実は合流する途中で良いモノを拾ったんだよ。基本的に星奈が素材の換金やってるだろ? だから預けとこうと思ってな」


「拾ったということは自然素材でしょうか?」


 流石は真面目子ちゃん。俺の言いぶりから、瑠璃子はすぐに察したようだ。

 自然素材というのは、要するに魔獣以外、ダンジョン内に自生する樹木や鉱物の事だ。

 無論、地球上に存在する物質とは似て非なるものだ。

 銃弾よりもダンジョン内の樹木で造った木槍の方が魔獣にダメージを与えられたり──なんて具合にな。


「あぁ、その通りだ。せっかくだし瑠璃子も見ていくか?」


「はいっ! 喜んで!」


 俺が尋ねると瑠璃子は、はにかみながら返事を返した。

 あ、天使。なんつーかこの従順さが瑠璃子の良いところだよなあ。


「脳筋パイセンがわざわざ拾ってくる素材……ってことは期待していいんすよね?」


 そんな感想を頭に浮かべていると、横から星奈が言う。

 彼女の言う期待とは、言わずもがな素材価値の事である。


「あぁ、もちろんだ。もっとも俺のうろ覚え冒険者知識が正しければ、だけどな」


「いや、それで断言できる意味がわからんっす。ちょー曖昧じゃないっすか!?」


「はは、冗談だよ。からかっただけだって」


「む、むむぅ……なんすかもう……」


 そんな会話を繰り広げながら、俺たちはホテルへと歩みを進めた。



 ◇



 そんなこんなでホテルの部屋についた俺たち。

 早速、俺は【収納】ポーチから例のアイテムを取り出した。


「渡したいのはコイツだ」


 言いながら机の上に碧く発光する鉱石をごろごろと並べていく。


「魔封晶じゃないっすか! それもこんなに沢山!」


「わぁ、綺麗ですねっ!」


「な? それなりに良い物だろ? つっても具体的な価値はあんまり知らないんだけどさ」


 ぶっちゃけ希少性が高いということしか俺は知らない。

 その辺は星奈の方が詳しいだろう。

 彼女は並んだ鉱石をしげしげと眺め、その価値を推し測る。


「サイズも大きいし、魔力の保存容量もまだありそうっすね。これなら魔法武器に使えるっすから、かなりの値が付きそうっす!」


 星奈が満足そうな笑みを浮かべる。

 クールな彼女が表情を綻ばせるという事は、相当に良いシロモノなのだろう。

 しかし、保存容量とかよくわかるな。

 見た目でわかるもんなのだろうか。

 

「おお、良かった! それにしても容量とかってどうやって判別してんだ? 大きさ?」


 受け答えついでに疑問を口にする。

 すると星奈に変わって瑠璃子が答えた。


「ふふ、魔封晶の色ですよ。ほら、見てください。この石だけ色が少し変化してます」


「確かに……若干紫っぽいな」


「これは賢人さんの魔力を吸収してるからなんです。魔封晶は込めた魔力の性質によって色が変化します。つまり、色の変化が見られるってことは、まだ吸収できるってことなんです!」


「なるほどな。ちなみにその魔力の性質ってのは持ち主で変わるのか?」


「はい! 噂だと1680万色のカラーパターンがあるとかないとか……魔力を込めた人物によっては七色に光る場合もあるそうです」


「……ゲーミング魔石かよ」


「ゲーミ……? ごめんなさい、なんですか?」


「いや、なんでもない」


 真面目子ちゃんの瑠璃子には伝わらんか。


「とりあえずコレのキャパにまだ余裕があることは理解したぞ。けど、上限の良し悪しは何で判別してるんだ?」


「それは光の強さっすね。魔封晶は発光度合いで保有してる魔力量がわかるんすけど、この光加減なら既に相当溜まってるっす。そこからさらにキャパがあるってだけで高値付くのは確実っすね」


 なるほど。それなら正確な上限は不明だとしても、ある程度の価値は予想できそうだ。

 それなりの数を拾ってきたし、こりゃ売上も期待できそうだ。


「あの……賢人さん。一つお願いしてもいいですか?」


 どれくらい儲かるかなと妄想してると、おもむろに瑠璃子が切り出した。


「ん? 俺にできることなら別に構わないぞ」


 元々、一人罠を踏んで転移しちまったお詫びはする予定だったしな。

 美少女のお願いの一つや二つ、叶えるのはやぶさかではない。


「実はその、魔封晶を一つ譲ってほしいんです。そこに賢人さんの魔力を込めてほしくて……」


「……魔封晶を?」


「はい……! その、ダメ……でしょうか?」


 俺が聞き返すと、瑠璃子は不安そうな表情を見せた。


「いや、そこは別にいいんだが……なぜに俺の魔力?」


「えっと……そ、それはですね! おまじない的なやつです! ほら、へその緒とかお守りにするじゃないですか! そんな感じです!」


 あー、確かへその緒を保管するのって魔除けとかの意味合いもあるんだっけ。

 よくわからんが魔封晶にも似たようなジンクスでもあるんだろう。


「そうなのか。ま、モノは沢山あるしな。俺の魔力で良けりゃ、いくらでも込めるさ」


「あ、ありがとうございます……にへへ」


 よっぽど嬉しかったのか、これでもかというくらいに可愛らしい笑みを見せる瑠璃子。

 そんなに嬉しいもんなのかと少し疑問だったが、口にするのは控えた。

 女子高生って、そういうおまじない的なの好きな年頃だろうしな。

 俺がとやかく言うのは間違いだろう。


「ず、ずるいっすよ、瑠璃子! パイセン、ウチも欲しいっす!」


「星奈もか? 構わないけど……案外こういうのも好きなんだな」


「うっ、なんすか。も、もしかして似合わないとでも言いたいんすか!?」


「いや、意外だなって思っただけだよ。本当にそれだけだ。それに──」


 星奈がジトッとした視線を向けてきたので、他意は無いことを伝える。


「似合わないどころか、むしろ女の子っぽくて可愛らしいじゃないか」


 口調のせいもあるが、どこかサバサバした印象のある星奈。

 そんな彼女の女の子らしい一面が見れて、素直にそう思ったのだ。


「カワっ……だぁー、なんすかもう……!」


 俺に言われたのが恥ずかしかったのか、星奈は頬を染めて目を逸らしてしまった。

 なんだろう、この可愛い生き物は。


「ふふ、星奈ちゃんってば可愛い。いいお店知ってるから一緒に行こうねっ」


「むう……そういうのは瑠璃子のが詳しいから、任せるっすよ」


 何やら女子高生御用達の店があるらしい。

 ま、コレをどう使うのかは知らんが、本人たちは喜んでるし別に悪いことじゃないだろう。


「それじゃ、早速、魔力を溜めてくか」


「あ、琴音ちゃんに蓄積してる魔力を全部抜いてもらいますから、その後にお願いしてもいいですか……?」


「え? このままじゃ駄目なのか?」


「それだと色が混ざっちゃいますから。その、そういうおまじないなんです……!」


「そうなのか……」


 ま、少なからず条件あってジンクスが成立するわけだしな。

 仕方ない。別に労力が必要なわけじゃないし、一旦は後回しにするか。

 寝る前に枕元にでも置いとけば、勝手に溜まるだろうし。


「それじゃ、雪菜たちのところに向かうか」


「りょっす」「はいっ!」


 魔封晶を星奈の【収納】リュックに移し替えた後、各自部屋に戻って着替える。

 それから島の北側にある入り江に向かうのだった。

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