第56話
──稲荷山。
それは京都市伏見区にある霊峰の一つ。
霊峰と言ってもいまいちピンと来ないかもしれない。
だが『伏見稲荷大社』や『千本鳥居』などのワードを聞けば、たとえ京都に訪れた経験が無くとも、そこがどんな場所か想像がつくだろう。
霊峰とは名ばかりではない。
それこそ無数に立ち並ぶ鳥居は、まるで別世界への入り口を思わせる。
幻想的で、どこか心に残る場所。
「──おお。テレビで見るより壮観だな、こりゃ」
「そうすっすね。ちょっと、怖い感じもするっすけど……」
そんな
高田さんを京都に迎え入れたのが、つい昨日の事。
そして午後の話し合いでは、瑠璃子から如月さんと町中で出逢った話を聴き取ったのだ。
「ここに如月さんが……」
気になるなら稲荷山に来い。
如月さんは瑠璃子へそう告げたそうだ。
「瑠璃子の話通りなら、きっとどこかにいるはずっす。もっとも、ウチらに情報を与えてくる理由はさっぱりっすけど」
「そうじゃの。これまでの行動から罠という訳では無さそうじゃが……」
なぜそんな事を伝えてきたのかは、正直わからない。
だが、彼女は俺たちに何かを求めている。そんな気がしてならなかった。
「ま、考えても仕方ないさ。ひとまずは見て回ろう」
「……そうですね。それしかないと思います」
俺の言葉に頷く瑠璃子。他のメンバーも続くように同意した。
◇
無数の鳥居を眺めながら稲荷山の参道をゆっくりと進んでゆく俺たち。
普段なら敏捷ステータスを活かしてさくさくと進むところだが、今回は高田さんも参加しているので控えめだ。
「ほむ……変じゃの」
しばらく進んだところでユーノが訝しげな顔で吐露した。
「何が変なんだ?」
「魔素を感じるのじゃ。それもダンジョンに満ちておるものと同じ類いのものじゃ」
ユーノの言葉に、今度は高田さんが不思議そうに首を傾げた。
「確かにそれは変ですね。この辺りにダンジョンは無かったはずです。もしあるとするならそれは──」
人差し指を頬に置きながら言葉を紡ぐ高田さん。
彼女が言わんとする事を察したユーノが、その続きを答えた。
「──新たに発生した。つまりはそういう事じゃな?」
「……ええ、そうなりますね」
新たなダンジョンの発生。それ自体は長いダンジョン史の中でそう珍しいものではない。
私有地内に出来たダンジョンを偶然発見したなんてニュースが流れる事だってある。
「なら、そのダンジョンの入り口を見つけ出して探索するのが一番手っ取り早そうだな」
だが、如月さんが居場所として
「それもそっすね。偶然にしては出来すぎっすから。それでユーノ。入り口っぽそうな場所わかるっすか?」
「うむぅ……近くである事はわかるのじゃが、具体的な位置は何とも……」
顎に手を当てて唸るユーノ。亜人だけあって人間よりは魔素を感知できるようだが、その詳細まで把握するのは難しいようだった。
「この沢山ある鳥居のどれかって事はないでしょうか? 鳥居って一種の門だったはずですし……」
呟くように瑠璃子が意見を出す。
なるほど、鳥居か。確かに神域への門だなんて話は耳にした事がある。
だが、その理屈がダンジョンにも通用するのだろうか。
別にダンジョン内に神さまが祀られている訳でもないしな。
「うーん。オカルト的には筋が通ってそうだが、流石にベタ過ぎるんじゃないか? 別にダンジョンは神域じゃないしさ」
「あう、そうですよね……」
それに、どちらかと言えば洞窟や洞穴などの自然的な場所がダンジョンの入り口になっているケースが圧倒的に多い。
この無数にある鳥居を虱潰しに調査するよりかは、参道から外れて洞穴を探すほうが効率的に思えた。
「あぁーっ!!」
「うおっ!? な、何だ急に!?」
突然の叫び声。驚いた俺は、咄嗟に声の方向へと顔を向けた。
するとそこには、信じられないといった表情でこちらに目を向ける星奈の姿があった。
「……瑠璃子、ビンゴっすよ」
そう呟く星奈は、近くの古ぼけた鳥居へと腕を伸ばしていた。
だが、ちょうど鳥居を潜った辺りから消失するように手が消え去っていた。
まるで、その部分だけ別世界へと行ってしまったかのように。
──いや、ベタだなぁオイ!
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