第55話

 その日の午後。俺はホテルの自室にみんなを呼び集めていた。

 その理由は言うまでもなく。高田さんを加えた今、改めて今後の方針を伝えるためだ。


「──と言う事ですので、少しの間お世話になりますね」


 自身が封印師シーラーである事。それによって如月さんのスキルを非活性化ディアクティベートする事が可能な事などなど。一通り説明を終えた高田さんは、締め括りの言葉と共に丁寧なお辞儀を見せた。


「ほへー。ただ者じゃないとは薄々思ってたっすけど、まさか封印師シーラーとは……めちゃくちゃレア天職じゃないすか。いや、ぶっちゃけ凄いっすよ?」


 高田さんの話を聞いていた星奈が感心するように吐露した。それを聞いた高田さんは気恥かしそうに手を頬に添える。


「ふふっ、ありがとうございます。今やSランク冒険者となった星奈さんにそこまで褒められると……少し恥ずかしいですね」


 いつになく満更でもない表情を見せる高田さん。

 それにしても星奈がここまで褒めちぎるとは珍しいな。

 初めて高田さんと会った時の彼女は、それこそ犬猿の仲と言わんばかりの様子だったというのに。

 ま、仲良くしてくれる分に超したことは無いから、別に良いんだけどね。

 

「──それだけレア天職なら、そりゃもうたんまり稼いでるっすよね? なら無理に玉の輿を狙う必要はないっすね」


「──うふふっ。私は妥協しない性格ですから。それに、その理屈なら星奈さんの方こそ気にしなくて大丈夫じゃないかしら?」


「ウチには綿密な人生計画があるっす。まず二十五までには冒険者を引退するっす。その後は……お、お嫁さんになって育児や家事に励むっすね。つまりは稼ぎ頭が必要っす!」


 うんうん。仲がいいのは良い事だ──あれ?


「あらあら。意外に乙女さんなんですね? そんな初心な調子だと二十五までに結婚は難しそうですが……」


「ふっ、残念っすけど、こちらの優位は変わらないっすよ。なにせパイセンはドが付くほど超鈍感なんす。言わばラノベ太郎……絡みあるウチはともかく、高田さんみたいな低頻度しか遭遇しないモブには一生手の届かない存在っすよ!! つまりは──」


「──だぁー! よくわからんが喧嘩やめいっ!」


 俺は会話に割り込むように叫んで、ヒートアップしつつある口論を止める事にした。

 このままいけば恐らく、エンドレスに言い合いしていた事だろう。


「全く……星奈も失礼な事言うんじゃない。つーか何で俺が巻き添え食らってんだよ。誰がラノベ太郎じゃい!」


 流石の俺もそこまで鈍感な男ではない。

 むしろ暗黒ニート時代に浪費してしまった貴重な時間の事を考えれば、青春には人一倍敏感なくらいである。それはもうトリュフを掘り当てるブタの嗅覚ほどの鋭敏さだ。

 まさに青春ブタ野郎。


「……自覚無しっす」

「……自覚無しなのじゃ」

「……自覚無しですね」


 異を唱えた俺をきょとんとした表情で見つめ、見計らったかのように呟く彼女たち。

 あれれ~? おかしいなぁ。変な事言ったつもりはないんだけど……。


「ごほんっ。──戯れはそれまでにして、そろそろ本題に入るのじゃ」


「え? あ、あぁ……そうだな。それじゃあ作戦を伝えるぞ」


 ユーノに促された俺は改めて作戦を説明すべく、握り拳を顔の前に構えた。


「──とにかく如月さんを見つけて動けなくして、高田さんに非活性化ディアクティベートしてもらう。これが今回の作戦だ!」


「……それはわかっておるのじゃ」


「……あ、はい。そうですよね」


 ひどく冷静にツッコミを入れられた俺は潔く引くことにした。スベった時は引き際が肝心なのだ。


「ま、要するに後は本人を見つけ出して、何とかして戦闘不能にまで追い込むってことっすよね?」


「まぁ、そういう事だな。問題はどうやって彼女を見つけ出すか。ウィキ……じゃなかった、ユーノ先生のスキルで居場所は検索できないのか? ルート検索とか潜伏場所の緯度経度にピン立てるとかさ?」


「わ、妾を検索エンジン扱いするでないっ! そんなスマホの地図アプリみたいな真似できぬのじゃ!」


「あはは、冗談だよ。それだけ頼りにしてるって事だ」


「ぐぬぬ……またそうやって誤魔化しよって!」


 両手を上げて憤慨するユーノ。ぽこぽこと俺の脇腹を殴って抗議の姿勢を見せるが、俺の要塞の如き防御力の前には赤子の殴打にも等しい。


「それにしても困ったな。星奈の索敵スキル範囲にも限度があるだろうし……ここは気が進まないが岸辺さんの忍術スキルに頼るか……」


 正直に言えば、如月さんが今回の騒動に関与していた事実を日坂さんや岸辺さんには伝えていない。仲間内が悪さをしていると知れば少なからずショックを受けると思ったからだ。

 だが、居場所が掴めない以上は彼らに真相を伝えて協力してもらうのもやむを得まい。


「あのぉ……その件なんですが……」


 俺が腕組して悩んでいると、それまで静かだった瑠璃子が恐る恐る手を上げた。

 それから彼女は、いつになくバツの悪そうな表情を見せながら気まずそうに吐露した。


「──わたし、如月さんの居場所……わかるかも、です」

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