鏡花水月 編
─変わり果てた彼女。変わり果てた私─
──あれは事故だった。
とても辛く、とても悲しいけれど、仕方のないことだった。
それは冒険者を志す者に必ず付き纏うものだ。
別に冒険者だって特別なわけじゃない。
危険な職種は世の中に無数に存在していて、今この瞬間も世界のどこかで誰かがその灯火を失っているのだから。
それでも、この世界は、何事もなかったかのように進む。
どこかの誰かの訃報なんて、テレビの画面越しに眺めて、他人事のように追悼の言葉を吐露するだけだ。
そして三分後には何事も無かったかのように日常が始まる。
だから、これは仕方のないことなんだ。
──ふざけないで欲しい。
そんな簡単に、彼女を過去にしないで。
そんな簡単に、彼女を諦めないで。
そんな簡単に、私が愛した彼女を、終わらせないで。
魔獣に食い散らかされ、見るも無惨な姿となった彼女。
そんな彼女の冷たい手を私は優しく握り、泣きながら必死に語りかけた。
楽しかった思い出。
自分が抱いていた気持ち。
だけども、彼女は答えない。
私の手が握り返されることもない。
スキルと呼ばれる人智を超えたシステムを手に入れてなお、人類は未だ生命の理を覆すことができなかったからだ。
天上の神ですら生命の理に干渉できぬと言うなら、もはや空を見上げて祈る必要はない。
彼らが与えてくれるものに、私の望むものは一つもないのだから。
──だから、私は冥府に祈った。
この世の理を覆す力を欲した。
それがたとえ歪な形でも、それがたとえ邪道であろうとも。
他の全てを犠牲にしようとも、彼女とまた笑い会える日々を、私は選んだ。
神さまが私を見捨てなかったのか。
それとも悪魔が擦り寄ってきただけなのか。
そのどちらかは知らない。とにかく、言えることはただひとつ。
──私の祈りは、届いた。
生まれ変わった彼女を見て、私は感涙に咽び、喜んだ。
ただ、新しい彼女は少し不完全で、昔のような明るさはすっかり失せていた。
私が求めれば、そう振る舞う。
誰かがいないと輝けないその姿は、まるで月のようだった。
それでも私は良かった。
彼女が昔のような明るさを失ってしまったのなら、私がその代わりになればいい。
彼女が変わったように、私も変わればよいのだ。
それまでの陰気な私はいなくなった。
私は変わったのだ。
──彼女を照らす、太陽に。
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