─私と彼女─
──私が彼女と出会ったのは、冒険者学校中等部の頃だった。
最終学年となり、クラスの面々も一新された時だ。
当時、能力差が仇となって周囲と馴染めずにいた私に、彼女は優しい笑顔と共に手を差し伸べてくれた。
今思えばそれは、ただの気まぐれだったのかも知れない。
今思えばそれは、単なる偶然だったのかも知れない。
聞けば、彼女は誰にでも優しく、誰とでも仲良くなれる人物だったらしい。
よく言えば交友関係に長けた人物。悪く言えば八方美人な女。そういう人物だ。
だからきっと、私という個人に興味があって声をかけてくれたのではなかったのだろう。
だけど、そんなことは私にはどうでも良かったのだ。
こんな私に声をかけてくれた。
こんな私と共に冒険に赴いてくれた。
ただその事実だけで、私にとって、彼女は特別な存在となったのだ。
──彼女と親友になってからは、毎日が楽しかった。
登校や昼食の時も。実践授業でダンジョン探索に挑戦する時も。
規定レベルを超えて自主探索ができるようになった時も。
自宅の部屋で一人過ごす時も。
対面にしろ、メッセージのやりとりにしろ、とにかく私は沢山の時間を彼女と共に過ごした。
楽しい思い出は掘り起こせばキリが無いけど、特に好きなのは名前を呼び合う瞬間だ。
お互い名前の響きが似ていることもあってか、ただ呼び合うだけで特別な関係性のような気分に浸れた。
例えるなら双子姉妹のような感覚、他人ではない深い絆で結ばれた何か。
馬鹿らしいと思うかも知れないが、当時の私は本気でそう感じていた。
──多分、私は彼女に恋をしていたんだと思う。
でも、当時の私はまだ気付いていなかった。
中学生といえば、まだ思春期の真っ盛り。
個人差はあれど、ようやく色恋沙汰に取り掛かり始めたばかりの年頃だ。
未成熟な心は、恋心という複雑怪奇な感情を理解しきっていない。
ちょっと優しくされたら誰かを好きになって、しばらく経てば『やっぱ違ったみたい』と別れて。そんなことを繰り返すような時期。
普通の異性間恋愛ですら、そんな事が多々ある年頃なのだ。
同性に恋した、という感情を正しく自覚できるわけがなかった。
──だからこそ、私は後悔した。
自分の感情に、自分の願望に、もっと早く気付けなかった事を。
そして、それをきちんと彼女へ伝えることができなかった事を。
だって、辛く、悲しいでしょう。
今更になって、自分の中に溢れる感情に気がついた時に。
今更になって、自分が思う以上に彼女が特別な存在だと知った時に。
──もうその願いが叶わないと知ってしまったら。
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