第21話
「ゲヒッ! ゲヒッ!」
新たに出現したメタボゴブリンは、まるで新しい玩具を見つけたかのように笑った。
その行動を見て俺は肩を竦めた。
──こいつ、馬鹿なのか?
俺の足元で息絶える同族の姿を見てなお、自分達が優位な立場にいると本気で信じているのか?
だとしたら、呆れて物が言えん。
俺は無言で杖を構え直し──そして跳ねるように駆けた。
「ゲヒャアアッ!?」
疾駆と共に振るった金属杖がメタボゴブリンの頭をかち割った。
どれだけ意味深に登場しようが、所詮は一度容易く屠った魔獣と同格の相手。
そいつを絶命させるために必要な戦闘行為は、あまりチャチ過ぎてバトル漫画の一コマにすら収まらない。
「とりあえず格上の相手くらいは見分けるようにしとけ。Eランクダンジョンに住むゴブリンアーチャーの方がまだ賢かったぞ」
亡骸に吐き捨てるように吐露した後、俺はダンジョンの下層へと向かった。
その後は語るのも躊躇うほど、つまらない探索だった。
どんなクソゲーだよ、と叫びたくなるほどのボスラッシュが続いたからだ。
七層目も、八層目も、とにかくゴブリンキングと遭遇した。
そいつらを一蹴しつつ、俺はさらに下層へと歩みを進めていき──
「おいおい、これで何体目だ?」
──そして目の前に現れた魔獣の姿に、俺は深い溜息を吐いた。
その理由はもちろん──またゴブリンキングと遭遇したからである。
現在、俺は【
ここに至るまでに幾度となく
ゴブリンキングの無駄遣いとしか言いようがない。
王とはなんぞ?という哲学的な思考に耽ってしまいそうなほど、雑な王様ラッシュである。
お前らダンジョン内で一体いくつ国を築いてるんだよ。
「──とりあえず永眠しとけ」
「ゲギャブッ!?」
言葉を吐くと同時にメタボゴブリンへと接近すると、瞬く間に殴殺した。
当然ながら倒すのには苦労はしない。
ボス魔獣とはいえ、ゴブリン程度にやられるようなステータスではないのだ。
「しかしまぁ、これって普通の冒険者からしたら多分ヤバいよな……」
俺は倒したメタボゴブリンの死体に目を向けた。
この状況はいくらなんでも異常すぎる。
仮にもボスとして認定された魔獣だ。そいつが雑魚敵の如くポンポンと湧いて出てくる。
廃ゲーマーもびっくりのボスラッシュに、流石の俺も言葉にならない不安を抱えていた。
「このダンジョンで一体何が起こってるんだ……?」
先ほど倒したゴブリンキングの魔石回収すら忘れ、その場で思考に耽った。
小難しい事は考えまいと思っていたが、前言撤回だ。
流石の俺でもこの異常については少しは考えないといけない、そんな使命感に駆られた。
もっとも──俺の経験則で正解を導き出せるか不明だが、それでも関連しそうな事を頭に浮かべていく。
──魔獣の発生にはダンジョン内の魔素が関係している。
そしてダンジョン内で最も魔素の濃い場所にはボス魔獣が出現する。
これが今現在のダンジョンと魔獣に関する通説だ。
では、ボス魔獣が大量に出現する状況とはどういう事か。
そもそもボス魔獣というのは人間が決めた定義に過ぎない。
言ってしまえば、ただの上位種の魔獣である。
つまり、魔素濃度の条件さえ満たしてしまえば、上位種の魔獣が複数体出現する事は十分にあり得るのだ。
例えば、ここ【
そこから導き出される答えは何か。
「魔素濃度──つまり、ダンジョンランクが上昇している?」
その根幹にある原因は不明だが、ひとまずそう考えるのが一番腑に落ちた。
それから以前に聞いた瑠璃子の言葉を反芻した。
『ボス魔獣は通常1~2ランク上位の魔獣ですから』
元々、ゴブリンキングはBランクダンジョンのボス魔獣扱い。
つまりAからSランクの強さだということだ。
そんな奴らが雑魚として湧くほど、ここのダンジョンのランクは上昇している。
ならば最深部──第十五階層には、Sランクダンジョンボス相当の魔獣がいる可能性が高い。
「ひとまず情報提供するにしても、何がいるのか確かめないとな」
ダンジョンの深部へと続く薄暗い天然の通路。
その先の深淵へ視線を向けつつ、俺はゆっくりと歩みを進めた。
そして、最深部──十五階層へと到達した。
「おぉ……すごいな」
そこで見た光景に、俺は感嘆の声を上げた。
十四階層までは何の変哲もない洞窟であった内部だが、この十五階層は違った。
この階層全てが大きく開けた空洞となっており、そこには城が出来ていた。
洞窟内の岩盤を切り出し、積み重ねて作ったであろう、大きな石造りの城が。
「こりゃ、本当に魔王でもいるんじゃないか?」
ダンジョンという存在は非常にゲームチックである。
だが、これまでに知性のある存在──つまり魔族のような種族は確認されていない。
しかしこの眼前で構える城はどうだろう。
労働力はゴブリンだとしても、その設計には確実に知性ある存在が関わっている。
それこそ魔獣を束ねる王──魔王のような存在が。
不安はあったが、それ以上に好奇心が勝っていた。
自分のステータスなら蛇が出ようが竜が出ようが生き残るくらいはできるという自負が後押ししたのかもしれない。
俺は吸い込まれるように城へと向かっていった。
内部は非常に無骨な作りだった。
石の床に石の外壁。明かり代わりにところどころ松明が立て掛けてある。
石材以外の素材が無いため、ひどく寂しい内装となるのは仕方ないか。
「特に警備は無いみたいだな──いや、警備なんざ不要なくらい強いってことか?」
石造りの廊下には、人影──もといゴブ影ひとつ見当たらない。
何ら障害もなく俺は内部を進んでゆき、そして玉座の間と思しき部屋に辿り着いた。
──そこに踏み入った瞬間、高らかな声が響く。
「わーっはっはっ! よくぞ我が城まで辿り着けたな! 愚かな
高圧的でいかにも魔王っぽいセリフ。やはり、知性を持つ魔獣──や、魔族の存在か?
俺はゆっくりと声の主へと目を向けた。
人類にとって未曾有の強敵となるであろう、その姿を熟視する。
──それから感情のままに吐露した。
「は? なんだコイツ?」
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