第690話 王城に到着

 秘密裏に行われたナタリアとオリヴィアによる襲撃者の掃討は無事に完了。ミナトは派遣された騎士達と共に星みの方々とそのリーダーであるマリアベルを王城へと送り届けた。その後、ミナト、シャーロット、そしてミナトの肩の上にいる水色スライムモードのピエール、そして合流したナタリアとオリヴィア、四人と一体で構成されている本日のF級冒険者パーティ『竜を饗する者』は当初の予定通り王城の一室へと招かれた。


「ミナト殿、此度は我等の追加依頼を受けて頂けたこと、陛下に代わって感謝申し上げる」


 その言葉と共にミナトたちを迎え入れたのはルガリア王国で宰相を務めているハウレット=フィルグレイさんである。


 宰相ハウレット=フィルグレイは先代国王の代からルガリア王国の宰相を務め、王国の文官と武官を取りまとめる立場にある。そしてその卓越した手腕により現在のルガリア王国の繁栄に多大な貢献をしてきた人物として知られていた。


 ウッドヴィル公爵家の先代当主であるモーリアン=ウッドヴィルやタルボット公爵家の現当主であるロナルド=タルボットとは学院の同期であり、そんな公爵家の二人も平民という出自に関わらず圧倒的な成績で学院を卒業し文官として王城へと勤め宰相まで上り詰めたハウレットには一目も二目も置いているとのことだ。


 ハウレット=フィルグレイを厚く登用したことこそが先代国王の最大の功績とまで言われている傑物なのである。


「お久しぶりです。お忙しいようですが、お時間ができたら今度またお越しください」


 ものすごく普通なトーンでそう言葉を返すミナト。


『騎士が斬りかかってくるかな?大体、こういった対応をすると無礼者とかって言われそうなものだけど……?』

『ミナト……、それもてんぷれってやつかしら……?その前にっておく?』

『大丈夫ですよ~。わたくしが切り払います~。あ~、そういえばマジックバッグは入り口で預けていました~。拳を使いましょう~』

『我が爪の切れ味を御覧に入れましょう!』

『王城で騎士を殺すのはよくないことかな……』

『溶かシマスカ~?』

『それはもっとダメだからやらないでね?』


 そんな会話を念話でしてしまうがいまさらこれ以上態度を改める気にもならないミナト。最近は忙しいらしくあまり姿を見せないがハウレットさんもミナトのBARの常連さんなのだ。カウンターを挟みつつ、気軽にいろいろと話せる間柄なのである。


 本来、大国であるルガリア王国の宰相はS級などであればともかくF級の冒険者が気軽に話しかけてよいような相手ではない。『不敬である!』との言葉と共に宰相さんの背後に立つ二人の騎士に無礼打ちされてもおかしくないのだが……、彼等は微妙な表情で静かに佇んでいるのみ。


『あ……、この騎士さんたちには見覚えがある。神聖帝国ミュロンドに同行した騎士の人達じゃない?』


 シャーロットたちはミナトの念話に首をかしげるが、本職がバーテンダーであるミナトは一度見た顔はそうそう忘れない。どうやら宰相さんが手を回してくれたようである。お茶を用意しているメイドさんも何事もなかったようにお茶の用意を続けている。


『しっかりした為政者はやっぱり違うってことかな?』

『宰相や高位の貴族がまともじゃないとこんな住みやすい国にはならないものよ』

『マスターへの素晴らしい対応といえますね~』

『マスター同様人族にも優秀な者はおりますからね』


 そんな念話のやり取りが行われていることに気づくことなく宰相ハウレットは、


「もう間もなく星みの方々が最初の儀式を終えられます。ミナト殿にはカーラ=ベオーザやデボラ殿、ミオ殿と合流して頂いたのち、護衛として会場に移動して頂ければと思います」


 そう言って王都の地図を広げるハウレット。大国とされるルガリア王国、その宰相であるハウレット=フィルグレイはミナトに敬意を表するように自ら率先してこれからの詳細についての確認を行うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る