第689話 戦いの後、ちょっとしたひととき
裏通りの結界が解かれる。建物の崩壊など一切なく、肉片どころか血の一滴も残されていない。そこにいるのはナタリアとオリヴィア、そして猿ぐつわをされぐるぐる巻きにされた黒を基調に金をあしらったローブの男。
「ナタリア殿、オリヴィア殿、襲撃者は……、数十人はいたと思ったのですが……?」
物陰から姿を現したのは一人の住民……、の姿をしているがミナトが計画した襲撃者対策の協力者として王家から遣わされたこの地区を取りまとめる影の一人である。おそらく王家からナタリアとオリヴィアの戦力を見極めるような指示もされているだろう。残念ながら結界内の戦闘は感知できなかったと思われるが……。
「殲滅しましたよ~。これはあなた達に必要ではないかと思い残しておいたのです~」
「東方魔聖教会連合のメンバーです。それほど位は高くないでしょうが、この襲撃を任された者だと思われます。尋問などあとはお好きなように」
ナタリアとオリヴィアは興味のかけらもないといった様子で足元に転がる男を説明する。ちなみに男の四肢はピエールの分裂体が扱う治癒能力で最低限はつなげているが、本当に最低限の治療らしく意識をなくしてぐったりしていた。
周囲に一切の気配がないことを確認した王家の影は怪訝な表情を浮かべる。
王都の影は隠密行動を得意とするルガリア王家直属の精鋭部隊である。徹底した現実家である彼等は相手の力量を見間違えるようなことはしない。集められた襲撃者は全員がかなりの手練れであった。手元の魔道具で魔法が使える者も数人いたことも分かっている。精鋭部隊といっても純粋な戦闘よりは暗殺や探索に特化されている影だけでは殲滅は困難な相手だったはずなのだ。
それなのに結界が解かれてみると襲撃者の姿は一人を残して跡形もなく消えている。影は眼前の二人……、ナタリアとオリヴィアを見る。だが影には彼女たちの戦闘力を推し量ることができなかった。希少とされる魔法の使い手かとも考えたが、王家から与えられた手元の魔道具は反応を示さなかったのである。ちなみにナタリアが魔力を持っておらず、オリヴィアは魔力を隠すことに極めて長けていることがその原因だ。さらにいうとピエールの隠蔽は極めて高度でありそのような魔道具では存在を検知することすらできない。
そういったことで本当に襲撃者を殲滅したのか、殲滅したとすればどのような方法だったのかは全くの不明であるが、影に与えられた第一の任務は彼女たちへの協力でありことの顛末を王城に届けることである。
「その男の扱いに関して承りました。私は王城へ報告に上がります。その男はこちらに……」
そう言って影が指を鳴らすと王城騎士の格好をした二人が物陰から姿を現す。騎士の姿をした新たな二人の影、屈強な一人のほうが男を担ぐと二人でどこかへと運んで行った。
「あとは我らにお任せを……」
頭を下げる影。
「では
「そうですね……」
いつも通り生真面目なオリヴィアの様子に、
「オリヴィアさんも暴れ足りないですか~?
笑顔でそう言ってくるナタリア。
「そ、それは私も同じです……、あれほど容易く六枚に下ろしてしまうと……。なかなかこの爪に見合う相手はいないもので……」
「そうです!こんど模擬戦をしましょう~!ロビンさんとフィンさんに冒険者の皆様を鍛えるお手伝いを頼まれていたのです~。オリヴィアさんもご一緒してそこで模擬戦をしませんか~?」
その非常に物騒な会話を耳にしつつ影は王城を目指す。多少なりとも王家に報告できることが増えたことへの安堵と、もし会話の内容が事実であればその力の矛先が王国へ向く恐怖が影の脳内を埋め尽くしているのであった。
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