第688話 殲滅完了

 改良された支配ドミネイションに絶対の自信があるからか、それとも先ほど三十人以上の刺客を一瞬で葬ったのを偶然と考えているのか、東方魔聖教会連合のローブを纏った男は支配ドミネイションによって自我を失った刺客たちをナタリアとオリヴィアに差し向ける。


 改良された支配ドミネイション、それは対象を者の意のままに操ることを可能にする従来の支配ドミネイションの効果に加え強引に対象の身体能力を限界以上に引き上げることを可能にする。その代償として自我の崩壊度合いは従来の支配ドミネイションを大きく上回るのだが一定の期間はそのことを隠蔽できる効果も併せ持っていた。


 そして、東方魔聖教会連合のローブを纏った男はその禁忌とされる魔法の力に酔っていた。ナタリアは小物と断定したが組織内におけるこの男の地位は低くはない。


 女性冒険者が男の冒険者に襲われるという事件を意図的に発生させることで王都における冒険者への信頼を低下させ王都全体の治安を悪化させ住民の不安感を煽り、冒険者の活躍を期待する王家の威信を貶める。


 ティジェス侯爵家を用いたゴーレム中心の策略と並行して行われるはずだったその計画。それが頓挫し、計画の中心にいた者も再起不能な姿で発見されたことで危機感を覚えた組織が失敗できないもう三つ目の計画……、 星みの方々への襲撃、当初は傭兵や冒険者崩れを雇って行う計画だったものをその成功を確かなものにするために送り込まれたのがこの男である。


 侯爵家の手引きで王都に潜入を果たし雇った傭兵や冒険者崩れを洗脳しつつ今日という襲撃の日を迎えた。妙な邪魔が入ったがたったいま改良された支配ドミネイションで襲撃者を限界まで強化した。この者たちはB級冒険者に近い実力を持っている。限界まで強化したのでおそらく一日もしない間に全員が行動不能の廃人になると思われるが、膂力や素早さだけなら上位のA級冒険者に迫る能力になっているだろう。


 目の前にいる二人の女など物の数ではないと考えたか……。


 しかしその鉄塊……、もとい愛用の大剣を構えたナタリアと構えるオリヴィアは普通の存在では絶対にない。世界の属性を統べるドラゴンと伝説の魔物であるフェンリルなのだ。そしてミナトのスキルである眷属魔法の眷属強化マックスオーバードライブによってその遥か上の存在に進化している。


【眷属魔法】眷属強化マックスオーバードライブ

 極めて高位の眷属を従えるという類稀な偉業を達成したことによって獲得された眷属魔法。眷属化した存在を強化する。眷属を確認して自動発動。強化は一度のみ。実は強化の度合いが圧倒的なので種を超越した存在になる可能性が……。


 その無謀とも思える戦闘はというと……、


「参ります~!」


 おっとりした口調のままナタリアがその大きすぎて無骨すぎる大剣を振るうと襲撃者五人が同時に爆散する。大剣を振るっているはずなのになぜそうなるかは分からないがでたらめな破壊力だ。


「オリヴィアさん、あの男は拘束して下さい~。王家に引き渡しましょう~」


「畏まりました……」


 ナタリアの言葉に頷きつつ襲撃者の一人とすれ違うオリヴィア。すれ違った冒険者が縦六枚におろされて絶命する。フェンリルの爪撃に耐えられる人族など存在しないのである。


 顔色一つ変えずに距離を詰めるオリヴィアに東方魔聖教会連合のローブを纏った男は引きつったような笑みを浮かべ、


「化け物ですね……、制裁は怖いですが報告に切り替えて……、ここは引きますか……」


 そう呟き懐から球状の何かを取り出し右手で掲げる。


「転移の魔道具です。あなた達のことはしっかりと報告させていただき……」


 男はそれ以上のセリフを吐けなかった。魔道具を持った右腕が肩口から切断され、その瞬間に消失したのである。


「ピエール……、私に任せて頂いてよかったのですが……」


 右腕を切り飛ばしたのはオリヴィアの爪撃。その右腕を消し飛ばしたのはピエールの分裂体が放った酸弾である。当然のごとくこの裏路地にもピエールの分裂体が配置されていたのだ。


 さらに男の体がゆっくりと前に倒れる。事態が呑み込めないのか蒼白の顔面を地面に打ち付ける男。その両足は見事なまでに切断されていた。


「殺しはしません。虜囚としての生活が待っています。きっと死んだほうがましだと思えるくらいの……、でしょうけど……」


 オリヴィアがそう呟き終わるころにはナタリアと対峙していた襲撃者は影も形もなくなっていたのであった。

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