第686話 美女二人による急襲
早朝の王都、ここは複雑に入り組んでいることでも有名な王都の裏通り。
「……お前達で最後のようですね?」
降り注ぐ陽光の下、十数人の刺客を前に銀髪の美女が立ちはだかる。ショートボブの髪型、褐色の肌、黒を基調にした執事服のような衣装、キリっとした切れ長の目にオリーブの瞳、非常に整った顔立ちにスラリとした体形……、オリヴィアだ。人の姿をしているがその正体は伝説の魔物とされるフェンリルである。
「まったく〜、これでは準備運動にもなりませんわ〜」
路地の奥から穏やかでおっとりとした声色の台詞が聞こえてくる。
姿を現したのはベージュのエプロンドレス纏った茶色の長髪を靡かせている美しい肢体を誇る長身の美女。慈愛に溢れた笑顔で佇むその背丈は高い。そしてその豊かなバストも見事な造形美と質感を湛えているのは……、ナタリアだ。こちらも人の姿をしているが真の姿はアースドラゴン。世界の属性を統べるとされるドラゴンの一角である。
そんなオリヴィアは素手。
ナタリアは肩に刃長り三メートル超え、身幅も一メートル以上はありそうな大剣とも鉄塊とも表現できる超重量の愛剣を担いでいる。
そして二人の足元には幾人もの屍が累々と横たわっていた。いや王家の頼みにより辛うじて生きている者もいるようではある。
「安心して下さい。結界によってあなた達の薄汚れた断末魔は……、いえ、それどころかその存在さえも住民には感知できません」
「この結界生成の魔道具はいい仕事をするんですよね〜」
二人が対峙している相手は今日この裏通りを通って王城入りする星
星
大きく平坦な道が整備されて街の主要な各所への移動が簡単と評判の表通りとは正反対で王都の裏通りは大小含め非常に複雑に入り組んでいることで有名だ。
今回の追加依頼を通してミナト達も初めて聞いた話だがどうやらそれは意図があって築き上げられたものらしい。カレンさんは明言を避けたが、王城を守りやすいとか、攻め込まれにくいとか、秘密裏に王都から脱出することを可能にしているとか……、そんなことらしい。
そして王家はいくつかのルートとその周辺に手を加えた。王家の影と呼ばれるような者達をそのルート周辺の住民にしたのである。
その結果、今日のような襲撃が予想される際には、戦闘に使用できる無人の一画というものを他の住民に気づかれることなく容易に作り出すことができるようになっているのだ。
そのことを聞いたシャーロットがルートを意図的に相手側へと流して刺客を誰にも気づかれることなく殲滅することを提案。カレンさんを通じて提案を受けた王家はこれを即座に了承。そこでミナトはオリヴィアとナタリアの二人に刺客の殲滅をお願いしたのである。
周辺にある建物は昨夜のうちに全て無人となっており周囲にはアースドラゴンの里で製作された魔道具によって認識阻害と防音の結界が張り巡らされている。一般の住民が戦闘に気づくことはまずありえない状態が完成した。
そんな無人の裏通りにのこのこと現れた刺客は数十名。見事なまでにオリヴィアとナタリアに急襲された一瞬の結果が二人の足元に転がっている状況だ。
「隠れても無駄ですが……」
「意味がありませんよ〜」
そう言いつつオリヴィアが右手を振り、ナタリアがその大剣を斜めに振り下ろす。その瞬間、二箇所、別々の物陰から絶叫と轟音が上がった。隠れていた一人が身体を縦六枚に引き裂かれ、もう一人が爆散したのである。
残った十数人の刺客達は声も出せずに青ざめる。
「想定外の事態ですね。仕方がありません。これは使いたくなかったのですが……」
王都の外で金によって集められたと思われる非合法の傭兵や無頼の冒険者で構成されていると思われた刺客達の中心から不思議と丁寧な言葉使いが聞こえてくる。
オリヴィアとナタリアは表情を変えないが一人だけ異質の気配を放っている者の存在は感じていた。当然、遅れをとることなどありえないが、ミナトからは『もしいたなら手加減しなくていい』とは聞いていたのである。
「いましたか……、二千年前の魔王を信奉する愚か者どもの成れの果てが……」
「あらあら〜、
そう言いつつオリヴィアはその頼もしい見事な爪を、ナタリアは鉄塊……、もとい大剣をそれぞれ構えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます