第685話 護衛をしつつ王城へ

 デボラとカーラ=ベオーザが王城へと戻ろうとしている頃……、


「ミナト!王城から使者が来たみたいよ?」


 小規模だが王都でもそれと知られた高級宿である『星降る満月の湖畔亭』のロビーでシャーロットが言ってくる。ブーツにショートパンツ、水色のシャツに薄手のニット、その上から魔導士風のローブを纏っているが、今日のローブにはフードがついていない。


「出発かな?」


 ふよふよ……。


 肩に水色スライムモードのピエールを乗せ、冒険者らしい動きやすさ重視の服装のミナトがそう返す。今日は漆黒の外套は纏っていないミナト、ただしピエールによる多数の分裂体がうすーく透明になって服に張り付いているのは秘密である。


 そして王城からの使者が数人の騎士を伴って宿のロビーにその姿を表した。既に出発に準備を整えていた星みの方々とそのリーダーであるマリアベルの前へと進み出る。


「王国における偉大なる祈りとされる星みの方々のご尊顔を拝し恐悦至極に存じ奉ります。皆様を王城へお迎えする役目を賜りましたミルドガルム公爵ウッドヴィル家より王国の東、アンセムの街を任されている……」


 貴族の流儀らしい長々と形式ばった口上というか挨拶が行われる。今回の使者はウッドヴィル公爵家の寄子というか家臣にあたる人物で男爵位を持っているらしい。傍に控える騎士もウッドヴィル公爵家の騎士である。


 そんな様子を遠巻きに眺めているミナトたち。護衛対象であるマリアベル率いる星みの方々はこれから王城へと移動する。


 夏祭りの残りの期間は王城に滞在し様々な儀式を行うことになる。


 通常であれば星みの方々は夏祭りが終了するまで王城から出ることはない。


 だが本日行われるティジェス侯爵家によるゴーレム披露に関して、ルガリア王国の南西に位置するドラムグール帝国からの要望があり、リーダー務めるマリアベルが出席することになった。


 帝国からの要望は『是非とも星みの方々もご一緒に』という内容だったが、そこは王家が調整し、マリアベル一人ということに決まったとか。


 追加の指名依頼を受けたミナトたち『竜を饗する者』はこれから王城までの星みの方々への護衛とゴーレム披露に赴くマリアベルの護衛を行うことになっている。


 そんなことをミナトが考えている間に挨拶は終了したらしい。カレンさんから事前に聞いていたとおり、使者は口上を述べるとロビーを後にしてそこに星みの方々一行が無言で続く。そして用意された複数台の馬車に乗り込むのだ。この辺りを無言で行うのが既に儀式の一環らしい。


 すると使者の護衛をしていた騎士の一人がミナトたちの下へとやってくる。


「皆様が護衛を担当されている冒険者パーティ『竜を饗する者』の方々でしょうか?」


 ものすごく礼儀正しい態度でそう言ってくる騎士に『その通りです』と返すミナト。すると、


「武勇は聞き及んでおります。私はウッドヴィル家に所属するトンプソン。カーラ=ベオーザの部下であり王国の麗水騎士団で隊長の一人を努めております」


 F級冒険者を相手にしているとはとても思えないくらいの丁寧な対応にミナトの方が驚いている。


「私は神聖帝国ミュロンドには同行できませんでした。ですがミナト殿やメンバーの皆様の活躍は同僚から聞き及んでおります。頂いたご連絡通り、ミナト殿とそちらのエルフ……、シャーロット殿のお二人による護衛とのこと宜しくお願いします」


 最敬礼でそう言うとトンプソンは踵を返し外へと移動しつつ、他の騎士達に指示を飛ばす。今回の使者に同行した騎士達のまとめ役らしい。


「ふぅ……。キサマらのような下賤なF級冒険者に高貴な方々の護衛など務まらん!さっさと消えろ!とか言われなくてよかったよ……」


「ミナト、昨日聞いたそのてんぷれってやつだけど、さすがに無いと思ってたわよ?私たちを相手にそんな対応をする者を使者にするほど王家も公爵家も愚かじゃないわ」


「そりゃそうか……。確かにね」


 そんな話をしつつミナトとシャーロット、そしてミナトの肩の上のピエールも外へと移動し、護衛の位置につく。二人それぞれで隊列の側面を護るように立つ。たった二人と侮ってはいけない。かなりヤバい戦力である。


『ナタリアとオリヴィアにはイヤな役目をお願いしちゃったな……』


『大丈夫!二人が嬉々として戦う姿が目に浮かぶわ!』


 ミナトたちの念話はあまり遠いところまでは届かない。今回のような隊列の幅が限界と思われる中、念話でそんな会話をする二人。


 そうここには護衛依頼を受けたはずのもうあと二人の姿がなかった。ナタリアとオリヴィアは既に動き出していたのである。

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