第683話 依頼受託!

「ミナト様率いるF級冒険者パーティ『竜を饗する者』に追加でご提示する指名依頼の内容はゴーレム披露会場での護衛です」


「護衛?既に星みの方々の護衛依頼を受けているおれ達にですか?」


 カレンさんの言葉にそう問い返すミナト。同時に二つに依頼を受けることはルール違反とはなっていないが護衛依頼を同時期に二つ、というのはなかなかない話である。クランなどの大所帯ならいざ知らず通常のパーティではそれぞれの依頼に人数を割くことは難しいからだ。


 まあ、ミナトにはテイムしている何百……、いやきっと合計で千を超えるレッドドラゴン、ブルードラゴン、アースドラゴンの皆さんがいるし、ピエールの自律する分裂体やフィンの部下もいる。軍勢には事欠かない状態ではあったりするが……。あ、頼めばファーマーさんもきっと協力してくれる……。


『ミナトを旗印に全員で王都に迫ったら二千年前の魔王軍が雑魚に見えるくらいの新生魔王軍といったところかしら?』


 ミナトの心を読んだかのような念話がシャーロットから伝わってくる。


『できなくはないけど、やらないからね!』


 念話でそう言い返しておいて、


「ちなみに護衛対象は?」


 先ほどのカレンさんは護衛の指名依頼とは言ったが護衛対象に関しては言及しなかった。それを確かめるミナトである。


「一応は会場に招かれる星みの方々が護衛の対象となります」


 カレンさんのなんとも微妙な回答に首を傾げるミナト。そんな曖昧な言い方をする必要はなさそうなものなのだが、


「もうすぐ星みの方々は王城へと移られます。その後、王城に滞在中は騎士が護衛の任に就く予定でした」


 そこまでは最初に受けた依頼内容である。ミナトも頷いて肯定する。


「数日前に王城で行われたパーティで事情が変わりました。パーティの席でティジェス侯爵が自家のゴーレムについて声高に自慢し、それにルガリア王国の南西に位置するドラムグール帝国の重鎮がそれを聞きつけ是非とも見たいと仰ったとか……。そして会場に居合わせたいくつかの研究施設の関係者である高位貴族の皆様が発表を辞退し、王城が認めてゴーレムのお披露目が決まったそうです」


 カレンさんは淡々と説明するが、


『そんな都合よく話って進むもの?あとドラムグール帝国……、新しい国の登場だ……』


 そう心中で呟くミナトである。


「あ、ちなみにですが、ティジェス侯爵とドラムグール帝国とは繋がりがあるようです。そしていくつかの研究施設の関係者である高位貴族の皆様とは二大公爵家に連なる方々ですね。ミリム様もその場におられたとか……」


「それって……、ティジェス侯爵とドラムグール帝国って国を引っ掛けたってことですか?ティジェス侯爵の後ろにいたのは他国ってことで……?」


「ふふ……、私からはこれ以上は申し上げられませんが……」


 そう言ってくるカレンさんの笑顔が少し黒い。


「さすが二大公爵家と言ったところかしら。網を張っていたようね」


 シャーロットが感心したように頷いている。王家と二大公爵家がどこまで状況を把握していたのか正確には知らないミナトだが、ピエールが持ち帰った情報やフィンの部下達の行動を含めこれまでの状況はカレンさんを通じて王家と二大公爵家には伝えられていた。


 王家と二大公爵家はティジェス侯爵がなんらかの動きを見せると予測して網を張っていたのだろう。背後にいるらしいドラムグール帝国という存在までを予期していたかまでは不明だが。


「それとその時期は王城に滞在することになっている星みの方々を是非ともそのお披露目に場に呼んでほしいと願ったのはドラムグール帝国の方とのことでした」


 カレンさんの最後の説明に、


「なるほど……、何かが起こりそうってことか……」


 納得の表情となるミナト。


「ミナトさんと皆さんには無理な依頼とはなってしまうのですが……」


 様付けではなくいつもBarのカウンター越しに話す口調になったカレンさんが申し訳なさそうに言ってくる。


 今回ミナトは襲撃や妨害に何事もなかったかのようにするという対応をしている。貴族というものは暗闘では些細な綻びも見逃さない。星みの方々への護衛依頼を通じてお世話になっている王家の権威を貶めたり、第一王女であるマリアンヌの婚約発表を辱めたりする可能性を完全に排除すことが今回の主目的なのだ。今回の報酬はお米と醤油。絶対にこのまま依頼を成功させたいミナトである。


『王家と二大公爵家はおれの方針に気づいているんだろうね』


『ミナトと私たちならゴーレムのお披露目なんて派手な公の場を設けても何も起こらないって状況のままティジェス侯爵や他の連中の思惑を潰せるって考えたのかしら?』


『あの人たちは優秀だし貴族としての矜持も冷血さも併せ持っていそうだから……。きっとおれ達が失敗した時は完璧な言い訳を考えてあると思うけどね』


 やはり高位貴族に利用されている感じがしないでもないが、普段からお世話になっていることは間違いないし、今回は報酬も破格である。


『ミナト?この依頼、受けるんでしょ?』


『ああ……』


 シャーロットに念話でそう答えてミナトはカレンさんへと向き直る。背後ではロビンとフィンが納得顔で頷いている。


「分かりました。その指名依頼を受けさせてもらいます」


 笑顔でそう答えるミナトであった。

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