第680話 夏祭り開催宣言

 ここは王城前に作られた広大な一画。普段は一般人の立ち入りを規制し、騎士の訓練や遠征時の編成などに使用されている一画なのだが、この日は王都の住民に解放され多くの人々が詰めかけている。


 詰めかけた住民たちの目的は彼らが見上げる視線の先にある。


 そこにあるのはこの一画を見下ろすことができるテラス。そして大歓声が上がる。


「国王様!」

「お妃様よ!」

「マティアス様はあいかわらずかっこいいなー!」

「マティアス様とアネット様……、本当に素敵なお二人よね」

「あちらが第一王女のマリアンヌ様ね。お元気そうでよかった……」

「以前お姿を拝した時はまだ幼くて……」

「ジェラール様、九歳と伺っているが凛々しくなられた」

「ルガリア王国の未来は明るいな!」

「第二王女のアナベル様……、笑顔が素敵……」

「素敵!ご家族そろって仲がよいって評判よ!」


 テラスに姿を現したのは、ルガリア王国の国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリア、王妃アネット=セレスティーヌ=フォン=ルガリア、第一王女マリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリア、第二王女アナベル=ブランディーヌ=フォン=ルガリア、第一王子ジェラール=オクタヴィアン=フォン=ルガリアである。


 まだ伏せられてはいるが第一王女のマリアンヌはこの夏祭りの期間中に王位継承権を放棄して新たに公爵家を興すことが発表される予定である。そして公爵家を興した後、現在は神聖帝国ミュロンドから家名と皇位を剥奪されルガリア王家預かりとなっている元第三王子のジョーナスを婿に迎えることになっていた。


 すでに内々には婚約すませている二人だがそんな事情もあってかジョーナス=イグリシアス=ミュロンドはこの場に姿を見せてはいない。


 本来であればこの一画に集まった騎士達に言葉をかけるために用意されたテラス。だが本日は国王の声を住民へと届けるために使われる。そして今日は特別に拡声の魔道具を用いることで国王の言葉はこの一画だけでなく王都全域に届けられるのだ。


「夏の太陽輝くこの快晴の下に今日という日を迎えることができたこと幸運に思う。皆で今日という日を、この機会を存分に楽しんでもらいたい!夏祭りの開催を宣言する!」


 王都が歓声に揺れ、夏祭りが始まる。


「できる準備は全てやったから、まずは出店を巡ろうか?どこも美味しいって聞いてるし……」

「そうね。街中と王城はピエールちゃんの分裂体でいっぱいだから安全だわ。ロビンもフィンも、フィンの部下たちも冒険者ギルドからの依頼で治安維持をやるって言っていたし……」

「大丈夫デス〜」


 肩に水色スライムモードのピエールを乗せたミナトとシャーロットが多数の屋台が出店されているという大通りを目指して歩みを進めている。


「ナタリアとオリヴィアから明日以降って言われたけど……」

「ふふ……、交代制だから今日は私とピエールちゃんが楽しませてもらうわ!」

 ふよふよ。

「オテヤワラカニオネガイシマス……」


 お米と醤油という報酬のため、ミナトは星みの方々へ護衛依頼を超えて王都全域に渡る万全の準備を整えた。


 そしてそのことを知っているのはこの国の中枢にあってもごく僅かな者達だけであった……。

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