第679話 ミナトの推測

 ミナトはティジェス侯爵の思惑を考える。


「ティジェス公爵はあの風魔法を使うゴーレムで『鉄の意志アイアン・ウィル』の全滅を狙った……」


「ピエールちゃんの話だと王都でも評判の上級冒険パーティでも太刀打ちできないゴーレムが王都に迫っている……、っていう状況を意図的に作り出そうとしたのよね?」


 ミナトの言葉にシャーロットがそう続く。そんな美人のエルフに頷いてみせるミナト。


「ああ。そして侯爵家にはそんなゴーレムに対抗できるような強力なゴーレムがあり、冒険者よりも侯爵家のゴーレムを中心に対策を行うべきだと国王に進言する。ピエールによると冒険者のことを嫌っているようだったし、騎士団と冒険者が協力して王都の防衛に取り組むっていう王家の方針に待ったをかけたかった……、さらに自家の評価を上げたかったってところ……、かな?」


 そう推測を披露しながらも首を傾げてしまうミナト。自分で言っておいて違和感を覚えたのだ。


「えーっと……?」


 俯き加減で違和感の正体について考えるミナト。そんなミナトの背後では、


「ファーマー殿!風魔法を使うゴーレムを分析されたと伺ったのですが?」


「どのようなゴーレムでしたか?」


 風魔法を使うゴーレムを見ていないロビンとフィンがファーマーさんにそう尋ねている。


「あまりあずましい気持ちのよい仕組みではながった。そもそも攻撃手段どしてつえい強い風魔法生み出す仕組みが……」


 そんなファーマーさんの言葉にピクリと考え込んでいたミナトが反応する。


「ミナト?」


 シャーロットの言葉に呼応するかのように顔を上げると、


「それだ……、強い風魔法……」


 そう呟きシャーロットへと振り向く。


「シャーロット!あの風魔法を使うゴーレムだけど、みんなであれば楽勝で斃せる思うけど、王都の冒険者は斃せるかな?」


 ミナトにそう問われて難しい顔になる美人のエルフ。


「それはちょっと厳しいと思うわ。あのゴーレムって人形って感じより砲台というか攻城兵器って感じだったじゃない?ピエールちゃんは簡単に溶かしていたけど装甲も丈夫な方だと思う。『鉄の意志アイアン・ウィル』の戦い方は上手だったけどあの魔力量や装備ではきっとあの装甲は貫けない」


 シャーロットがそう答え、


「ふむ……、ティーニュは随分と腕を上げているが、やはり対人やそれと似たサイズの相手が中心の戦い方が基本となっている。ファーマー殿の話を聞く限り相性が悪いように思えるが……」


 ロビンもティーニュに関してそう語る。傍のフィンとファーマーさんも納得顔だ。


「シャーロット、もう一つ質問。そんなロビンやフィン、それにファーマーさんが鍛えた王都の上級冒険者でも持て余すゴーレムに太刀打ちできるゴーレムを貴族とはいえ侯爵家が開発できるかな?」


「そう言われると……、無理ね。できるとしたら風魔法を使うゴーレムを造った東方魔聖教会連合に技術提供を受けた場合くらいかしら?」


 そう結論づける美人のエルフ。ナタリア、オリヴィアも頷いている。


「技術の提供があったかは分からないけど狙いは分かった気がする……」


 そう呟くミナト。


「もしティジェス侯爵の思惑どおりにことが運んだとして、王家が侯爵家のゴーレムを頼って風の魔法を使うゴーレムと侯爵家のゴーレムが激突……、侯爵家のゴーレムは一敗地にまみれ、風魔法を使うゴーレムが王都へ侵攻……」


 ミナトのそん言葉を、


「連中の想定ではその頃には王都の治安はどうしようもないくらいに悪化していて冒険者の協力は得られない。ついでに戦力としても計算できる星みの方々は王都に到着する前に全滅。その責任の全ては侯爵家のゴーレムを頼った王家にある?」


 そうシャーロットが引き継いだ。


「実際にはそうはならなかったけど、風魔法を使うゴーレムがまだ残っているなら王都に侵攻させて、侯爵家のゴーレムに対峙させる策はまだ実行できる可能性がある。王家の権威を失墜させるには十分かな?だけどそうなると相手はティジェス侯爵と東方魔聖教会連合だけじゃ足りない。王家の失態を指摘する役が必要だ……」


 ミナトはそんな推測を冒険者ギルドのカレンさん、王城にいるデボラとミオへ伝えるためピエールにもうひと働きお願いするのであった。


 長女の幸せを願う王家。祝福するために招かれた者。王都を狙う狂った組織とその傀儡となった貴族。王家の権威失墜を願う者。そして米と醤油のため今回は全力で王家を護ることを決定した魔王……、ではなくてF級冒険者とその仲間たち。


 様々な思惑が交差する中、いよいよ王都の夏祭りが開催されるのである。

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