第678話 ピエールからの報告

「なるほど……、ティジェス侯爵家の屋敷……、そしてあの男がサイリドって名前で、さらにもう一人が金をあしらった黒い司祭服の男ね……」


頷きながらそう呟くミナト。


ここは小規模だが王都でもそれと知られた高級宿である『星降る満月の湖畔亭』。ミナトたちへの護衛依頼は継続中であり、その護衛対象であるマリアベル率いる星みの方々の王都における常宿であった。カレンさんによると星みの方々の末裔が経営している宿とのことである。


そんな『星降る満月の湖畔亭』においてミナトたちにあてがわれたかなり大きめの一室。そこにミナト、シャーロット、ナタリア、オリヴィア、ロビン、フィン、ファーマーさん、そして帰還を果たした分裂体と合体したピエールの姿がある。


ミナトとシャーロットはミナトのお城でファーマーさんによるゴーレムの分析が終了した後、ファーマーさんを誘ってこの宿に戻ってきた。


そのタイミングでピエールの分裂体が『星降る満月の湖畔亭』に帰還したのである。


そこでミナトはピエールから話を聞くため、宿での護衛を任せていたナタリアとオリヴィアに来てもらい、さらに情報共有のため【転移魔法】である眷属転移テレポを使い夏祭りのため王都に来た冒険者を監視しているロビンとフィンを喚びだした。


ちなみに王城にいるデボラとミオが眷属転移テレポで消えると騒ぎになりそうだったので、情報とミナトの伝言は後でピエールの分裂体にお願いすることにしている。


そうして分裂体と合体したピエールから報告を聞いたミナトの反応が冒頭の呟きである。


「改良した支配ドミネイションって……、そんな腐った魔法を使う金をあしらった黒い司祭服の男って……、そんな趣味の悪いクズが所属する組織なんて一つしかないわ!」


吐き捨てるようにそう言い放つシャーロット。


「東方魔聖教会連合……、夏祭りのタイミングで仕掛けてきたってことかな?」


そう言うミナトにシャーロットが頷く。


「ピエールちゃんの話だと王都までの道中で私たちとマリアベル達に刺客を送り込んだのも、王都で女性冒険者を襲おうとしたのも、あの不快なゴーレムも全部あの連中が仕掛けってことね」


「今のところ全部なかったことになっているかな?」


そう全員に確認するミナト。


王城にはカレンさんから『星みの方々は道中トラブルもなく予定通り王都に到着されました』と報告されている。王家と二大公爵家には真実も共に伝えられているとは思うが……。


「マスターよ。冒険者ギルドでは女性冒険者を襲う輩に関して全く把握しておらぬ。噂すら皆無と言ってよかろう。冒険者ギルドはいつも通りである」


「どうも私の部下が目につきやすいらしく……、おそらくですが、そのために雇われた連中は全て返り討ちにしたと思われます。住民への危害という話もありません。さらに現在も部下が街中で活動していますし、ピエール殿の分裂体も王都の各所に潜んでおりますので警戒は万全かと……」


ロビンとフィンのそんな報告に、


『ここまでは順調かな?』


そんなことを考えるミナト。


「わもこご数日はずっと王都で過ごしてらが、フィン殿の部下がその者達さ対応するごど以上の気になる気配ぁ感じでいませんね」


ファーマーさんもそう言ってくれる。


「……ということはおれ達が注意するのはピエールが聞いたっていうもう一つの作戦かな?あ、この情報もカレンさんと共有しよう。でも王家や二大公爵家の人って優秀だから既にティジェス侯爵家のことに気付いているかもね?」


「貴族というか為政者ってそんなものよ。そっちは任せていいんじゃない?それよりも……、作戦ってどんな内容なのかしら?」


シャーロットがやや不機嫌にそう反応する。


「あのままあそこにいてもワカラナカッタと思いマシタ〜」


そう言ってくる幼女モードのピエールを膝の上に乗せて抱きしめつつ頭を撫でるシャーロット。


「うふふ……、ピエールちゃんは何も悪くないわ。むしろ凄すぎるくらいよ。私ではこんな風に情報を集められないわ」


シャーロットに褒められて嬉しいのかピエールが笑顔になり一室がほっこりした空気に包まれる。


「作戦ね……」


ミナトは後には引けないという東方魔聖教会連合の目的と共謀したティジェス侯爵家の思惑を考えるのであった。

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転生したバーテンダーは異世界でもシェイカーを振りたい 酒と食 @winter0_0winter

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