第677話 侯爵の魔法
ティジェス侯爵家の当主であるイアサント=ティジェスが黒い司祭服を纏った不気味な男とサイリドと呼ばれた男を睨みつける。
「何がこの程度だというのだ!?なんの騒ぎも起きてはおらぬではないか!?」
激昂するイアサントを前に骸骨のように痩せている黒い司祭服の男は肩をすくめてみせる。
「私達もー、よく分からないのですよ。あはは……、星
黒い司祭服の男はまるで全てが他人事といった態度で不気味な笑い声を挟みつつそう答えた。
「いま一度だけ問うことにしよう……。貴様らは本当に刺客を放ち、女冒険者を襲おうとし、ゴーレムを配置したのだな?」
怒りに震える声でそう問いかける侯爵家当主。
「あはは……、いやですねー、何も起きていないからと私達を疑うのですかー?それは心外ですー、あは……。私達は約束は守るのですよー?」
おどけた様子で黒い司祭服の男が返すと、
「そうか……、ならばもはやこれまでよな……」
そう呟きつつ、おもむろに椅子から立ち上がるイアサント。次の瞬間、
「
イアサントの声と共に風の魔力を纏った巨大な不可視の刃が黒い司祭服の男とサイリドと呼ばれた男の身体を上下真っ二つに両断した。
「邪教徒風情が……、この私を侮ったな……、ビゴール!」
サイリドの声に従うように執務室のドアが開き、
「屋敷外に魔力は漏れておりません。どうやらご決断されたようで……」
頭を下げている老年の執事が姿を現した。
「うむ。この死体どもを運び出せ!」
言われるままに顔を上げる執事だが、その安堵の表情は怪訝なものへと変化する。
「イアサント様……?二人の死体はいずこに……」
「何を言っている。この私の
そこで二人の会話は途絶えた。ゆっくりと老執事の頭部が床へと落下する。そしてイアサントの胸からは幅広な長剣の刀身が伸びている。
「ごふっ!」
大量に吐血するイアサント。
「いけませんねー。そのような行為をされては困るのですよー、あはは……」
イアサント背後から黒い司祭服の男が姿を現す。そして手に握られた幅広の長剣をイアサントごと高く掲げた。その痩躯からは考えられない膂力である。イアサントが苦痛に呻く。
サイリドと呼ばれた男も老執事の背後からその姿を現した。老執事の首を落としたのはサイリドらしい。
「分かりますよー?あは……、私達は確かに動いた。しかし全てが無かったことにされているー。王家かー、あの面倒な二つの公爵家がー、何かを掴んで動いたことを懸念したんですよねー?あは……」
そう言って幅広の長剣を振りイアサントを壁に叩きつける。
「こうなっては仕方がないー、私達を斃してー、知らぬ存ぜぬー、いやー、既に知られているのであれば、私達を裏切ってー、王家に助命を請うー、といったところですかー?あはは……」
そう言って床に倒れ瀕死のイアサントの前で膝をつく黒い司祭服の男。
「でもダメですー。あはは……、確かにあの忌々しい王家にー、計画は潰されたかもしれませんがー、私達は止まりませんー。それに残しておいたあの作戦にはー、あは……、あなたのゴーレムがー、必要なのですよー?」
そう語ると男の手から白い光が放たれ瀕死状態であるイアサントの体を包む。するとあっという間に傷口が塞がるが……、
「あがっ!あががががががが……」
呻き声でもない奇声を上げながらイアサントの全身が痙攣する。
「あはは……、私達が改良した
サイリドと呼ばれた男にくっついて来て透明なまま天井に張り付いていたピエールの分裂体は十分な情報を得たと判断した。伝説の魔物とされるエンシェントスライムの分裂体は当然の如く誰にも気づかれることなく侯爵家の屋敷を後にするのだった。
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