第676話 不気味な二人

「それで……?此度の失態について貴様達はどんな説明をこの私にしてくれるのだ?」


 その苛立ちを隠すこともなくそう言うのはこの屋敷の主人であるイアサント=ティジェス。ティジェス侯爵家の当主である。


 執務室に備えられた豪華な椅子に腰を下ろし、執務机の上で拳を握りしめつつ眼前に立つ二人を睨みつけるイアサント。


 しかし睨みつけられている二人からは緊張感といったものが感じられない。


「あはは……、あは……、あは……。いやー、これは手厳しい……。このような事態になってこう見えて私達も困惑しているんですよー、あはは……」


 最初に口を開いたのは司祭服らしきものを纏った男。長身痩躯という言葉がこれほどあてはまる者も少ないのではと思わせるほどの長身かつ痩せぎすの身体に加えて骸骨のような風貌に窪んだ眼窩、そんな男が狂気を含んだ笑いを漏らしつつ悪びれもせずにそう話す。漆黒に金をあしらった司祭服が不気味であった。


「狂信者が!」


 吐き捨てるようにそう言いながら侯爵家当主であるイアサントは鋭い視線をもう一人へと向ける。


「サイリド!貴様の言い分を聞かせてもらおうか?」


 侯爵という地位は、公爵、侯爵、伯爵、男爵、公爵と同格の辺境伯、騎士爵といった爵位があるルガリア王国において高位貴族に分類される。そのためイアサントの言葉には貴族らしい有無を言わせぬ迫力があるのだが、サイリドと呼ばれた男には響いていないらしい。


「私はご命令通りにバリエンダール商会長の後押しをしてゴーレムの再調査を実現させ、手勢を率い森に配置されていると聞かされていたゴーレムを使って冒険者パーティを全滅させようとしましたよ?結局、ゴーレムは見つからず、冒険者パーティ反撃を受けて撤退しましたがね。あ、あが!?あがががががががががが!!」


 サイリドと呼ばれた男が淡々とそう語っていたところ、突然、その身体が光に包まれると共に全身を痙攣させて苦しみ始める。


「あは……、いけませんよー。サイリド、あなたはこの侯爵家の使用人なのですからー。あはは……、うーん……、この魔法はなかなか調整がムズカシイですー、でも楽しくてー、便利ですねー、あは、あは……」


 不気味な笑いと共にそう話す黒い司祭服の男。そうして光が収まると、


「申し開きもございません、ご主人様。下劣な冒険者と見くびりました。女神ティーニュを別格とすれば王都最強と呼ばれる冒険者パーティだけのことはございます。まさか全メンバー魔法を使うとは予期しておりませんでした。お預かりした手勢も失い、貴重な魔道具を作動させ帰還するなど万死に値する愚行であったと自認しております」


 跪いてそう報告するサイリドと呼ばれた男。その様子は先ほどまでの淡々とした語り口に人物とはまるで別人である。


 イアサントは汚物を見るような目でその様子を窺っているが、


「ほー、B級冒険者パーティ全員が魔法をですかー?にわかには信じがたいことですー、あはは……、強化をして次戦ったら勝てますかー?」


「確実に抹殺してご覧に入れます!」


「やはり冒険者のレベルというのはこの程度なのでしょうかねー、あは……」


 そんな言葉を交わす黒い司祭服の男とサイリドと呼ばれた男。


 直後、テーブルを拳で叩く音が執務室に響き渡る。


「何がこの程度なのだ……」


 表情にはっきりと怒りの感情を現した侯爵家の当主が呻くようにそう言うのであった。

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