第673話 どんな魔物なのか

「ウインドドラゴンは『風のダンジョン』の最深部でしか竜の姿を維持できないの。最深部以外では風の妖精シルフィード、つまり背中に羽のある可愛らしい小さな妖精の姿でしか存在ができない」


 そうシャーロットに言われてもすぐにはイメージできないミナト。


 デボラ、ミオ、ナタリアは世界の属性を司るドラゴン、オリヴィアはフェンリル、ピエールはエンシェントスライム、ロビンは首無し騎士デュラハンの上位種である煉獄の首無し騎士ヘル・デュラハンからさらに進化した首を失った闘神ヘル・オーディン、フィンは漆黒のスケルトンブラック・スケルトンであり彼女が率いる黒薔薇騎士団ブラック・ローズの真の姿は多種多様なアンデッドである。


 そんな身内も含めて数多くの魔物を目の当たりにしてきたミナトだがまだ妖精の類に遭遇したことがない。


「えっと……、風の妖精シルフィードっていうと……、小さくて、空を飛んで、いたずら好きで恥ずかしがり屋なのに好奇心旺盛で……、そんな姿に魅了された男が婚約者をほったらかしにしたまま、魅力に狂って魔女に騙されて呪いのショールで風の妖精シルフィードの羽と命を落として……、絶望に駆られながら婚約者が他の男と結婚する光景を目の当たりにして破滅する感じ……?」


 序盤はミナトの思う一般的なファンタジーな妖精だったが後半は著名なバレエ作品に影響された特徴を言ってみるミナト。気付くとシャーロットとファーマーさんが絵に描いたようなという表現がぴったりなほどの怪訝そうな表情と共にこちらを見ている。


「ミナト……、あなたのいた世界の創作物に登場する風の妖精シルフィードのイメージってどうなっているのかしら……?その……、風の妖精シルフィードに男が魅了されて破滅する……、だっけ?」


「いやはや……、いったいどごでそった話聞いでぎだのだが?」


 ジトっとした視線と共にそう言ってくる美人のエルフとダンディな神父様。怪訝な表情もとても絵になるのが美人とイケオジの凄いところではある。


「それはバレエってジャンルの作品で古典的な物語なんだ。風の妖精シルフィードに悪気があったわけじゃなくて愚かな男が勝手に魅了されて暴走して破滅するっていう作品で世界的に有名だったりして……、あはは……、違ってた?」


 特にシャーロットの視線から逃れるようにそう言い募るミナト。


『パリのオペラ座で観た公演はすごかった』


 などと少しだけ過去の思い出に浸っているのは秘密である。


 するとシャーロットはため息と共に、


「あなたのいた世界って本当に想像力が豊かだったと思うけど、あなたのイメージとこの世界の風の妖精シルフィードには随分と差があるわ。ミナトの印象の中だとしか合っていないわよ?」


 半ば呆れたように言ってくる。


「いたずら好きで恥ずかしがり屋なのに好奇心旺盛ってところは……?」


 思わず即答で聞き返すミナト。むしろそのあたりが風の妖精シルフィードというかファンタジーにおける妖精の特徴ではないのかと思うミナト。巨大すぎる大剣を振り回してボロボロになりながら異形を屠る物語でも、地面に模様を描いて異世界の存在を召喚する物語でも妖精はだいたいそんな性質であったと記憶している。


『ま、まあ、後者の方がずっとトボけていて下品だったりするけど……』


 そんなことを考えているミナトに、ずずいっと詰め寄る美人のエルフ。ちょっと威圧が出ている感じがする。


「ミナト、風の妖精シルフィードには世界を巡る風を管理する使命があるの。風は魔力と共に世界を巡る。その存在は世界を司る六つの属性がそのバランスをとるのに重要なの。そんな軽薄な者に任せられる訳がないでしょ?」


「たしかに……?」


 シャーロットの威圧に冷や汗を流すミナトへさらに詰め寄る美人のエルフ。


「ウインドドラゴン……、というか風の妖精シルフィードは聡明で理知的な存在よ。覚えておいてね?」


「ワカリマシタ……」


 にっこり笑うシャーロットにそう答えることしかできないミナトであった。

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